欧州サッカー最高峰の決戦の火蓋がいよいよ切って落とされる。
 現地時間19日、2011−12欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝がミュンヘンのフスバル・アレナ・ミュンヘンで行われる。欧州最強クラブを決める一戦に駒を進めたのは、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)とチェルシー(イングランド)。チェルシーはクラブ史上初のビッグイヤー。バイエルンは64−65シーズンのインテル以来、実に46年ぶりのホームスタジアムでの優勝を狙う。
 今回、顔を合わせるのは、ともにCL制覇への強い思いを抱く2チームだ。チェルシーは2度目のファイナルで悲願の初優勝を狙う。4季前の07−08シーズンも決勝に進出したものの、マンチェスター・ユナイテッド相手にPK戦の末、涙をのんだ。さらに今季はリーグ戦6位に終わり、来季のCL出場権を得るには、ここで勝ってディフェンディングチャンピオンとしての枠を確保するしかない。

 対するバイエルンは2季ぶりのファイナルをホームで迎える。ちなみに決勝が進出チームの本拠地で行われるのは、83−84シーズンのASローマ以来、28年ぶり。今季はリーグ戦、カップ戦ともにボルシア・ドルトムントに優勝をさらわれ、2シーズン連続で無冠の危機だ。それだけに、バイエルンカラーの赤に染まるであろうフスバル・アレナ・ミュンヘンで負けるわけにはいかない。

 両者の今季の戦いぶりは対照的だ。バイエルンが年間を通して安定した戦いだったのに対し、チェルシーは開幕当初は振るわなかった。リーグ戦では早々に優勝争いから脱落。クラブはCLベスト16第1戦に敗北後、昨季の欧州リーグ優勝の実績を買って招聘したアンドレ・ビラス・ボラスを更迭する。後任にはアシスタントコーチでクラブOBのディ・マッテオが就任した。

 この監督交代劇が吉と出た。後がないCLベスト16第2戦では、トータルスコアで追いつき、延長戦の末にベスト8進出。その勢いのまま、準々決勝を勝ち抜いて。準決勝では欧州王者のバルセロナと激突した。ここでもチェルシーはホームの第1戦で1−0と攻撃力で勝るバルサを完封。第2戦は0−2の劣勢を挽回し、カウンターから2点を奪ってCL連覇を狙ったバルサに引導を渡した。指揮官交代後のリーグ戦とCLを合わせた17試合は10勝4敗3分。さらにFA杯では2季ぶりに優勝を果たすなど、チーム状態は明らかに上向きだ。

 そんなチェルシーのキープレーヤーは、FWのディディエ・ドログバだ。リーグ戦では24試合で5ゴールと苦しんだが、CLでは7試合に出場して5ゴール。なかでもバルサとの準決勝第1戦では、値千金の決勝ゴールを挙げた。FA杯決勝でも勝負を決める2点目を奪うなど、勝負強さは健在だ。彼の武器は何と言ってもフィジカル能力。高いジャンプ力、激しい当たりにもぶれないバランス感覚、そしてパワー……彼を完璧に止められるDFは、そうはいない。また足元の技術も高く、ポストプレーやパスで味方のゴールを演出する場面も多いから相手には厄介だ。チェルシーの攻撃は、彼が前線で起点になることで成り立っているといっても過言ではない。決勝でもドログバがいかにゴールに近い位置でプレーできるかがポイントになるだろう。

 悲願の初優勝に向けて、不安は守備の柱の不在だ。決勝では、主将で守備の要を担うジョン・テリー、ブラニスラフ・イヴァノビッチとCBの2人が出場停止。さらにラミレス、ラウール・メイレレスと2人のレギュラー選手が累積警告でベンチ入りできない。強力攻撃陣を擁するバイエルンが相手だけに、強固な守備を構築しなければ、大量失点を喫する危険性もある。決勝では普段以上にゴール前を固め、守備的な戦い方で臨むことが予想される。

 一方のバイエルンは、今季もリーグ2位となる77得点を記録するなど、攻撃は破壊力抜群だ。リーグ得点ランク2位(26点)のマリオ・ゴメスをワントップに、2列目の右にアリイェン・ロッベン、左にフランク・リベリ、中央のトーマス・ミュラーで前線を形成する。この4人で奪ったゴールは今季、実に57得点。彼らが絶え間なくゴールに迫り、相手を攻め倒す。

 加えて、今季のバイエルンは守備も安定感がある。昨季40だった失点数はリーグ最小の22に激減。堅守の立役者となったのが、今季から加入したGKマヌエル・ノイアーだ。抜群の反射神経と果敢な飛び出しでゴールを死守。PK戦に突入したCL準決勝のレアル・マドリード戦では、2本連続で相手のキックをストップした。攻守にバランスがとれたチームに、優勝への死角はないように思える。

 ただ、それもベストメンバーを組めればの話だ。チェルシー同様、CL決勝では複数の主力選手を出場停止で欠く。中でもCBのホルガー・バトシュトゥバーの欠場は痛い。ドイツ代表でもある23歳のDFは、リーグ戦34試合中33試合に出場するなど、不動のレギュラーとしてチームを支えた。彼が不在のなか、カギを握るのが、もうひとりのCBジェローム・ボアテングと、バトシュトゥバーの代役選手とのコンビネーションだろう。連携不足などで一瞬の隙を見せれば、高い決定力を誇るドログバやフランク・ランパードはそれを見逃さないはず。守りから崩れれば、強力攻撃陣も力を十分に発揮できない。バイエルンとしては、早い時間帯で先制、追加点を奪って守備に余裕をもたらせたい。

 両者は毎シーズンのようにCL出場しているものの、直接対決は意外にも今回が2度目。前回は04−05シーズンの準々決勝で激突し、第1戦はチェルシー(4―2)、第2戦はバイエルン(3―2)が勝利した。この時は2戦合計6−5でチェルシーが勝ち抜けたが、互角の勝負だった。今回は戦力の充実度や、ホームで試合ができる点を踏まえてバイエルンが有利との見方が強い。バイエルンがボールを支配して攻勢を仕掛け、チェルシーがそれに耐えてカウンターを狙う。そんな構図になるのではないか。

 有力クラブが集う欧州において、CLの決勝は事実上の世界一決定戦。このところクラブW杯でも欧州王者が5大会連続で優勝を収めている。今年もクラブW杯は12月に日本開催が決定済。果たして、ビッグイヤーと日本行きのチケットを手にするのはどちらのクラブか。全世界のサッカーファン、注目の決戦が眼前に迫っている。