21日、東京・国立代々木競技場でロンドン五輪壮行会が行なわれた。今夏のロンドン五輪は、日本が五輪に初出場した1912年のストックホルム大会からちょうど100年目という節目の大会でもある。ストックホルム大会ではわずか2名だった出場選手は、100年を経た今大会は293名を数える。「金メダルを獲得することに全力を尽くして頑張りたい」という陸上男子の村上幸史主将の力強い決意表明のもと、各選手たちは改めて気を引き締めていた。
(写真:子どもたちから受け取ったお守りを手に)
 結団式後に行なわれた壮行会は、初めて一般公開で行なわれ、国旗カラーの赤のジャケットと白のパンツに身を包んだ選手たちが次々と登場すると、約6000人のファンから大きな拍手が送られた。野田佳彦総理大臣も応援に駆け付け、次のようにメッセージを贈った。
「代表に選ばれるまでの間、それぞれ長く苦しい道のりがあったと思う。想像を絶する激しいトレーニングで流した汗、凌ぎを削るライバルたちとの競い合いの中で流した悔し涙、嬉し涙、何よりも自分との戦いの日々があったと思う。日本代表の誇りを胸に刻み、フェアプレーの精神で、とことん力を尽くし、世界の強豪たちと堂々と渡り合ってほしい」

 さらに、東京都が招致活動を行なっている2020年の五輪にも触れ、「2020年に五輪とパラリンピックを東京に招致するために政府をあげて全力を尽くす」と宣言したうえで、次のように語った。
「ロンドンにおける活躍は東京五輪の実現にも直結している。ロンドンで多くの選手が立派な成績を残し、メダルを獲得することは東京五輪の実現に向けて大きくはばたくことになると確信している」

 今大会は昨年3月11日に起きた「東日本大震災」で、日本列島が未曾有の被害を受けて以降、初めての五輪となる。そんな中、津波で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市と南三陸町の子どもたちから、瓦礫にメッセージを書いたお守りが選手一人一人に手渡された。そして、代表者の石巻市立牡鹿中3年生・佐藤瑞保さんが次のように思いを語った。

「3月11日、大震災によって私たちの生活は一変した。私たちが通う中学校は流されずに済んだが、各地区に点在する避難所への物資を集約する基地となり、グラウンドにはトラックやヘリコプターが次々と到着し、体育館は全国からの支援物資でいっぱいになった。私たちにとっては貴重な運動場が全てなくなり、大好きなスポーツができなくなってしまったことが本当に辛かった。そんな時、私たちの学校に谷川真理さんが来てくれて、ウォーキングやマラソンを一緒にしてくれた。久しぶりに体を動かすことができ、とても嬉しかったことを今でも覚えている。近くの瓦礫置き場には建物や道路の残骸が集められ、日に日にうず高く積み上げられている。その瓦礫の山を見ると、今でも心が痛み、あの日を思い出さずにはいられない。今回、選手の皆さんが胸につけているバレッタは震災の瓦礫に新しい命を吹き込んでつくったもの。今まで瓦礫は震災を思い出させる悲しみの象徴だったが、1年経った今、このようなかたちで生まれ変わったことを嬉しく思う」

 子どもたちから熱いメッセージをもらった選手たちの代表として、主将の村上選手は次のように決意を語った。
「あの大震災から私たち選手は初めての五輪を目前にしている。それぞれの選手がさまざまな思いを胸に、この1年、汗を流してきた。選手一同、国民の目に焼き付くようなプレー、また一生記憶に残るようなプレーしたいと思っている。ロンドン五輪ではたくさんの声援を背に、胸に秘めて、精一杯力を発揮してきたい」

 ロンドン五輪は27日に開幕。明日22日には、日本選手団本隊がロンドンに向けて出発する。ロンドンでの開催3回目にして初出場となった日本。第二次世界大戦後、初の五輪となった2回目のロンドン五輪(1948年)に日本は戦争責任を問われ、招待されなかった。そんな歴史的背景も加わって、日本にとって今夏のロンドン五輪は特別な大会でもある。果たして、どんな名シーン・名言が生まれるのか。293名の選手たちの活躍を期待したい。

 その他のコメントは次の通り。

主将・村上幸史(陸上)
「結団式・壮行会を終えて、選手一同、五輪に向けてなお一層強い気持ちになった。自分自身も本番に向けて、しっかりやっていくぞ、という気持ちになっている。しっかりと自分がたてた課題・目標を五輪という舞台で達成したいと思っている。北京から4年、ロンドンに向けての思いをしっかりと本番にぶつけたい」

旗手・吉田沙保里(レスリング)
「結団式で旗を持った瞬間は重みを感じた。開会式では選手団の先頭を歩くということで、緊張しているが、しっかりと胸を張って笑顔で歩きたいと思う。壮行会ではたくさんの方に応援してもらっていることを実感した。ロンドンでは自分のレスリングを出して、金メダルを獲りたいと思う。いろいろと悩んでいた時期もあったが、今はいい状態に上がってきているので、このままの勢いで頑張りたい」

穴井隆将(柔道)
「(壮行会では)皆さんが心ひとつに応援してくれていることを肌で感じることができた。出発を前日に控えた夜に、力になるイベントを催してもらい、ありがたいと思っている。日本の男子はみんな金メダルを目指して、いい雰囲気の中で稽古がやれている。そんなみんなの強い気持ちに駆り立てられて、自分自身もここまでくることができた。柔道は初日から始まるので、一人一人の頑張りがチームジャパンにつながると思う」

福見友子(柔道)
「まず正装した時点で、日本選手団の一員になったんだなという思いを感じた。たくさんの方々に応援していただいて、やってやるぞという気持ちが湧いてきた。(初日の登場について)私自身が一生懸命戦う姿を皆さんに見ていただいて、それに続いてもらえればと思っている」

上村春樹団長
「この五輪では(金メダル獲得数で)世界第5位、15〜18個を目標にしている。その目標を達成すべく強化してきたが、いい雰囲気になってきたのではないかと思っている。2020年には必ず東京五輪を実現させたい。今回の目標を達成することが、東京五輪の招致活動につなげることができるのではないかと思っている」