30日、日本サッカー協会はキリンチャレンジ杯2012(6日=対UAE)とW杯アジア最終予選の第4戦(11日=対イラク)に臨む日本代表23名を発表した。海外組から順当にFW香川真司(マンU)、MF本田圭佑(CSKAモスクワ)らを選出。国内組からはMF遠藤保仁(G大阪)やDF駒野友一(磐田)などを招集した。FW清武弘嗣(ニュルンベルク)とDF酒井宏樹(ハノーバー)、FW原口元気(浦和)が復帰。一方、15日のベネズエラ戦に招集された中から宮市亮(ウィガン)、槙野智章(浦和)、藤本淳吾(名古屋)が外れた。なお、出場停止でイラク戦に出られない今野泰幸(G大阪)、内田篤人(シャルケ)らは選外となっている。
「非常に大事な試合」
 アルベルト・ザッケローニ監督はイラク戦をこう位置付けた。6月からスタートした最終予選は、この試合で早くも折り返しを迎える。グループ2位以上が出場権を得るなかで、日本は現在、勝ち点7でグループBの首位。日本より1つ消化試合数が少ない国もあるが、2位との差は5もある。2位以下のライバルたちにプレッシャーを与え、今後の戦いを有利に進めるためにも勝ち点3を確保したい一戦だ。

 白星をもぎ取るために選ばれたメンバーは、6月の最終予選3連戦を戦った構成がベースとなった。ザッケローニ監督は「選手を入れ替えることで連係にズレが生じれば、プレーのスピードが遅れる」と継続性を重視したかたちだ。

 今回のイラク戦に向けて、指揮官が掲げたポイントは2つある。「コンディション」と「代表での役割に集中させること」だ。
 1つ目の「コンディション」は選考にも表れ、宮市は代表から外れた。その理由についてザッケローニ監督は「(宮市が)試合に90分間出場したのは、4月にまで遡らなければならない。仮に呼んでも、100パーセントのパフォーマンスは見られないだろう」と指摘した。また宮市は、この13日にアーセナルからウィガンへ期限付き移籍しており、「新しい環境にうまくなじめるように」との配慮があったことも明かした。

 一方で、コンディションが復調して代表に呼び戻された選手もいる。それが清武と酒井宏だ。ともにロンドン五輪で主力としてプレーしたため、先のベネズエラ戦では疲れを考慮して選出を見送られていた。だが、清武はブンデスリーガの開幕戦でフル出場。酒井宏は五輪で左足首を負傷した影響で、所属先の公式戦には出ていないが、「(ケガの問題は)解決している」と判断し、招集に踏み切った。
 彼ら以外の海外組も、欧州ではシーズンが始まったばかりで、コンディションが万全かどうか不透明だ。9月6日のUAE戦は調子を見極める意味で重要なテストマッチになる。

 2つ目のポイントである「代表での役割」に関しては、所属クラブと異なるポジションを担う選手がいかに機能するかがテーマとなる。焦点となるのは、本田と香川だ。ザッケローニ監督は、就任以降、本田をトップ下のポジションで使い続けてきた。一方、香川は所属クラブではトップ下として高いパフォーマンスを見せているにも関わらず、代表でのポジションは左MF。マンUに移籍した今季もドイツ時代同様にトップ下でプレーし、25日のフラム戦ではプレミア初ゴールもマークした。代表でも香川を中央でプレーさせるべきとの声も上がるなか、ザッケローニ監督は「本田の適性はトップ下」と語る。しかし、ベネズエラ戦では本田、香川ともノーゴールと結果が出なかった。今回の2試合でも中央・本田、左・香川の構図に変化はなさそうだが、不発に終われば、この“絶対領域”の見直しも必要になってくる。

 出場停止に伴い、CBの今野と内田がいないDFラインでは、ベネズエラ戦で駒野がアシストを決めるなど、内田の代役として実力をアピールした。一方で、今野の代わりに試されたDF伊野波雅彦(神戸)と水本裕貴(広島)は、ミスからピンチを招くなど、穴を埋める存在にはなりえていない。ザッケローニ監督はUAE戦で「吉田の横でプレーする時間を与える」と2人を追試する考えを明かした。

 イラク代表の監督は言わずと知れたジーコだ。ドイツW杯で日本を率いたかつての指揮官がザックジャパンの前に立ちはだかる。ジーコは3次予選直前に監督に就任すると、5勝1敗の成績を収め、イラクをグループ首位通過に導いた。長く日本サッカーに携わっているだけに、その弱点も熟知しているはずだ。11日の試合では、高さに不安がある日本に対し、ロングボールを多用するサッカーを展開することも予想される。

「ジーコの経験、そしてイラクの選手たちの個の能力は警戒しなければならない」とザッケローニ監督が明かすように、個々人のレベルも高い。現在のイラク代表はアテネ五輪でベスト4に躍進し、07年のアジア杯を制した選手たちが中心を占める。要注意選手がアジア杯得点王のFWユニス・マフムード。守りの上では彼を前線で自由にさせないことがポイントだ。

 イラクとの通算戦績は日本から見て2勝2分3敗とほぼ五分だが、2分のうちの1つは、日本サッカー史に残る93年アメリカW杯予選での“ドーハの悲劇”。同予選で対戦するのは、それ以来、実に19年ぶりだ。ザックジャパンは埼玉で“悲劇”を“喜劇”に変え、ブラジルに突き進む。

【五輪代表・関塚監督、退任後は「またどこかで監督を」】

 同日、ロンドン五輪男子代表の関塚隆監督が、契約満了に伴い、同職と兼任していたA代表コーチから退くことが発表された。関塚監督は、2010年9月に五輪を目指す当時のU-21代表監督に就任。初陣となった同年のアジア大会では、初優勝を飾った。五輪予選も突破し、迎えた本大会ではメキシコ五輪以来、44年ぶりのベスト4進出に導いた。そんな2年間を指揮官は「内容の濃い充実した日々を送れた。やれることはやり尽くした」と振り返った。

 関塚監督にとっては、代表というカテゴリーでの指揮は初めての経験。会見では「手探りの状態だった。(海外組やオーバーエージの招集など)いろいろと想定外のことがある中で、ベストよりベターにしていくやりくりが大変だった」と代表監督ならでは苦悩も明かした。そのなかで五輪4位という成績を残せたことには「経験豊富なスタッフが一緒にやってくれて助かった」と感謝。選手たちには「次の(ブラジル)W杯のメンバーに名を連ねることを、私もコーチも願っている」とエールを送った。自身の今後については「またどこかで監督をやりたい」と現場への意欲を見せた。


<日本代表メンバー23人>

GK
川島永嗣(スタンダール・リエージュ)
西川周作(サンフレッチェ広島)
権田修一(FC東京)
DF
駒野友一(ジュビロ磐田)
岩政大樹(鹿島アントラーズ)
伊野波雅彦(ヴィッセル神戸)
水本裕貴(サンフレッチェ広島)
長友佑都(インテル・ミラノ)
吉田麻也(VVVフェンロ)
酒井高徳(シュツットガルト)
酒井宏樹(ハノーバー96)
MF
遠藤保仁(ガンバ大阪)
中村憲剛(川崎フロンターレ)
長谷部誠(ヴォルフスブルク)
細貝萌(バイヤー・レバークーゼン)
本田圭佑(CSKAモスクワ)
高橋秀人(FC東京)
FW
前田遼一(ジュビロ磐田)
岡崎慎司(シュツットガルト)
ハーフナー・マイク(フィテッセ)
香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)
清武弘嗣(ニュルンベルク)
原口元気(浦和レッズ)