25日、東京都内のホテルで西武球団が設置した調査委員会(慶大名誉教授・池井優委員長)が同球団の裏金問題について、最終報告を行った。同委員会によると、4日に行われた中間報告から新たな不正行為は発覚しなかったという。
(写真:西武の裏金問題に対する最終報告書を読み上げる池井委員長)
 中間報告で発表された謝礼を支払った高校、大学などの延べ170人ものアマチュア関係者や、早大・清水勝仁、東京ガス・木村雄太投手以外にも金銭供与を行っていた5人の選手、最高標準額(1億5000万円)を超えた契約金を支払った15人の選手の実名については、公表しない。また、コミッショナーへはこれらの実名を記載した名簿が西武球団から報告されている。同委員会は「言及する立場にはない」としながらも、コミッショナーに対しても公表すべきではないという考えを示した。

 約1カ月半に及ぶ調査を終え、各人の見解を記者から訊ねられると、それぞれ次のように述べた。

「社会的にモラルが欠如してきているが、スポーツマンシップにのっとり、最も守られるべき立場にある野球界がこのような汚いことが行われているとは……。どんなに立派なルールをつくっても、それを守ろうというモラルがなければ、何もならない。今回の調査が、その第一歩となれば」(池井優委員長)

「きちんとしたルールをつくり、厳正に守ろうという思いを球団にはもってもらいたい。また、今回の事件が西武球団だけのことではなく、球界全体が自分たちの問題としてとらえ、再発防止に努めていけば、これからも発展していくだろう」(矢田次男委員)

「いかに協約やルールといった建て前と現実がかけ離れているかが明らかになった。そして、そのことが世間に広く認知されていたにもかかわらず、誰も指摘をしてこなかった。それが、こうした不正行為を温存させることになったのだろう。今後はルールを組み直し、建て前と現実を一致させていかなければならない。
 また、西武球団はこれまで親会社の広告塔という傾向が強かったが、これからは独立した経営をしていくべきではないか」(嶌信彦委員)

「きちんとしたルールがあったにもかかわらず、なぜこうしたことが繰り返されてきたのか。本来、ルールとは理念や理想があって、それに近づけるようにするためのもの。しかし、これまではきちんと直面せずに、何かが起きたから単に手直しされてきただけだった。根を深く掘ってみて、つくりなおすのか、手直しですむことなのかを考えてもらいたい」(吉永みち子委員)

 最終報告では、太田秀和球団社長について、これまでの不正行為について何ら関与しておらず、引継ぎの際、星野好男前球団社長からは「2名の選手について金銭供与が行われたが、きちんと解消している」とだけ言われ、当該選手の名前などは伝えられていなかったことが明らかとなった。

 昨夏、ドラフト会議に向けて指名選手についての社内会議で、太田社長は金銭供与が行われた2名の選手を指名しないように、名前を確認した。そこで初めて同社長に木村、清水の両選手の名前が知らされた。その時点でも、同社長は倫理行動宣言前に行われていたことだと認識していたという。

 また、清水選手に対して西武側が「何も知らなかったことにしてくれ」と口止めするような裏工作をしたという疑惑について、調査委員会の調査によると、3月9日に太田社長が会見で金銭供与の事実を発表した後、清水選手の関係者から「清水は何も知らなかったことにしてほしい。彼を守ってほしい」という申し入れが複数回にわたってあった。そこで、前田俊郎スカウトは鈴木葉留彦スカウト部長に相談したうえで、清水選手を傷つけないようにとの配慮から、同選手に「君は知らなかったことにするから」という旨を電話で伝えたという。

 調査委員会による最終報告を受けて、太田社長は次のようにコメントした。
「この短期間でこれだけの濃い内容の報告書をまとめていただいた調査委員会に感謝したい。報告書の内容については、厳粛に受け止めて早急に再発防止策の構築と関係者の処分を行うつもりだ。改めてファンや世間、関係者の皆様に対し、多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びしたい。再発防止策を構築し、それがきちんと守られるように確立させることが私の最大の使命だと思っている」
(写真:最終報告を受けて、謝罪とともに今後の対応について語る太田球団社長)

 再発防止策や関係者の処分については、連休明けにもコミッショナーに報告される予定だ。関係者の処分、今後の対応については西武グループのルールに基づいて行われる。また、同球団のスカウトについては、引き続き自粛されるもようだ。

 同球団の裏金問題が明らかとなって以降、横浜・那須野巧投手へ最高標準額を大幅に超えた5億3000万円もの契約金の支払いが行われていたことも判明するなど、プロ野球界への疑惑は一層深まっている。さらに、波紋はアマチュア界にまで及んだ。同球団が金銭供与を行った清水選手の母校、専大北上高(岩手)の元指導者がこの問題に深く関わっていただけでなく、同校が学生野球憲章に違反するスポーツ特待生制度を行っていた事実が発覚。これを受けて同校野球部が解散にまで追い込まれた。これを口火に、次々とスポーツ特待生制度を実施している高校が名乗り出る事態となっている。日本高校野球連盟は、全加盟校の実態調査を行い、5月2日までに回答を求めるとした。同制度によって、奨学金などを受けていた選手は5月末まで対外試合の参加が認められない。

 昨年3月には日本代表がワールド・ベースボール・クラシックの初代チャンピオンに輝き、高校野球では37年ぶりの決勝再試合が行われ、例年以上に盛り上がりを見せた。また、久々に六大学野球への関心も高まりつつあり、ここにきて野球人気が上昇している感があった。野球界にとっては願ってもない状況であったに違いない。そんな中、自らの首を絞めるかたちで次々と不正疑惑が発覚。今後も、さらに波紋が広がることは間違いない。果たして、これを機に野球界にはびこるウミを除去できるのか。どのような解決策を投じ、どのような結末を迎えるのか。プロ、アマ双方の動きに、今後も注目したい。