安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.3)
二宮: 僕は田中角栄を題材にした『大いなる完』という本宮さんの作品を読みました。確か、本宮さんは新自由クラブ(当時)の田川誠一氏も取材されていますよね。ロッキード事件で田中角栄氏が逮捕され、いわゆる「政治とカネ」という政治論理が重要課題になっていたときに「田中的な政治ではダメだ」と田川さんは主張していた。
 その作品の中で、今でも印象に残っているのは、田中角栄をモチーフにした人物のオーラのすごさと田川誠一をモチーフにした人物の「言っていることは正しいけれど、人間としては面白くない」というような「器の違い」が描かれていたことです。

本宮: それは僕が言ったんじゃない。田中さんが言ったんだ(笑)。実は田川さんを取材したことを田中さんに伝えたら、「ああいうピーチクパーチクきれいごとを言っている人間は気楽でいいやな」と田中さんが言うんです(笑)。
 僕は連載の中で、それをそのまま描くわけです。すると今度はそれを見た田川さんが激怒して、「国会の代表質問のときに、君の漫画のことを質問しようと思ったぐらいだ」と僕に文句を言ってくるんです。

全員: へーっ(笑)。

本宮: 国会で取り上げられたら、ある種とんでもない宣言になるし、僕は名誉なことだと思ったけれど、「お前はあの刑事被告人の田中角栄を持ち上げて、その言い分を全国の子どもたちに読ませるとは何ごとだ」と、田川さんから長文の「お叱り」の手紙をいただきました。
 でも僕は「子どもたちは純粋な、きれいな水の中で育っているわけじゃない。泥水だって世の中だし、それをそのまま伝えるのが自分の仕事だ」という返事をした。
しかし、今改めて思い返すと、田中角栄というオヤジは、やはり「天然」のすごい人物でしたが、正直に言うと、うまく会話ができなかった。

二宮: どういうことですか。会話ができないというのは。

本宮: 田中さんは話し出したら、ひとりで喋りまくるんですよ、一方的に。それで会話するコツを教わった。当時はもう朝から「オールドパー」を飲んでいたんですが、秘書から「ウィスキーを口に入れたときに質問しろ」とレクチャーを受けたんです(笑)。
 飲み終わった瞬間に、こっちの質問が終わってもいないのに、バラバラバラバラーッと答え出すんですよ(笑)。
 あの当時、田中さんとまともに会話できたのは、おそらく娘の真紀子さん(現衆議院議員・無所属)とお孫さんぐらいじゃないかな。僕はそのとき「この人とはか言わできないな」と思いました。
 その後、僕は竹下登さん(第74代内閣総理大臣)にも会いました。パーティの席で、竹下さんは僕の顔を見て「君が本宮君か」と話しかけてきた。そのとき僕は「この人についていこう」というような気持ちになっちゃった(笑)。
 田中さんとはまったく会話ができなかったけれど、竹下さんは「君が本宮君か」と言うぐらいだから、少なくとも僕のことを知っているわけじゃないですか。

木村: つまり、竹下さんが本宮さんの作品を読んでいたということですよね。

本宮: しかも、僕を見ながらニコーッと笑ったんです。竹下さんは田中派内の勉強会として創政会を結成していましたが、その後、中間派を取り込んで経世会という自分の派閥を立ち上げるでしょう。田中さんの決定に、ほかの人たちは一切口をはさめなかった。ところが竹下さんはああいうタイプだったから、みんなは「彼を立てれば自分たちも意見が言える」と思ったんですよ。だから、一斉に竹下さんについていった。経世会発足のニュースを聞いたとき、そう思いました。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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