いつから、こんな詭弁がまかり通るようになったのか。「相撲の世界は各部屋が個人商店、協会が商工会議所のような関係。ひとつの部屋で不祥事が起きたからといって、いちいち理事長が責任を取る必要はない」。元力士やタレントから、しばしばこのような発言を耳にする。本当にそうだろうか。

 2月8日付けの紙面で、本紙はこう断じている。<相撲協会の所属員は給料制。トップの理事長は企業の社長に当たり、前時津風親方と力士は社員に当たる。その社員が協会にとって致命的な不祥事を犯しながらトップが責任をとらないのは常識外れ>。どちらの主張に説得力があるかは読者の判断を待つまでもない。

 ちなみに年寄(親方)の給与(基本給と手当)は財団法人日本相撲協会寄付行為によって細かく区分されている。理事140万5千円。ヒラの親方でも78万4千円。年寄株さえ取得すれば引退後の生活は保障される。それゆえ思考はどうしても内向きになり、改革をためらう空気が組織内に蔓延していく。日本相撲協会の病理はそこに端を発しているように思われる。

 話はかわるが、1970年代、「三無主義」という言葉が流行した。“シラケ世代“と呼ばれた当時の高校生たちを指したもので「無気力」「無関心」「無感動」が社会問題化した。中身は異なるが、今の協会も「三無主義」に蝕まれている。こちらは「無自覚」「無反省」そして「無責任」――。

 尊い若者の命が「暴行」によって奪われ、前時津風親方と三人の現役力士が逮捕されるという前代未聞の不祥事を起こしながら、北の湖理事長は責任を前親方ひとりに押し付け、改革のかの字すら口にしない。逆に「改革? 改革って何をですか?」と開き直るありさま。一方、逮捕された前親方は前親方で「兄弟子たちが勝手にやりました」と供述しているという。

 せめて北の湖理事長は「協会のトップとして責任を痛感する。志半ばで非業の死をとげた青年に報いるためにも改革を断行する」――このくらいのことは言うべきだ。その決意が示せないのなら、今すぐ身を引くべきだ。これ以上、大相撲の名誉を汚さないためにも。

<この原稿は08年2月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

◎バックナンバーはこちらから