再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.7 ※最終回)
二宮: メジャーリーグは日本球界のプロ・アマの対立や性度上の不備についてもよく知っている。ここを突かれたら、日本球界は破壊的なダメージを受けますよ。
井箟: メジャーに行きたい選手は多いからね。松坂のようにアメリカのエージェントが選手を獲りにきたら日本は対応できない。

二宮: ポスティング制度(日本の選手がメジャーリーグに移籍するときに行われる入札制度)は組織防衛上仕方ない面もある。FAで取られると、球団には1円も入りませんから。ただ、アメリカも日本のいい選手をもっと安く取ることを考えていますよ。松坂のようにポスティングで取るのではなくて、「高校生からそのまま取ろう」と。今は米球界の景気がいいから西武に60億円をポンと払うような大盤振る舞いをしたけど、いつまでも好況が続くとは限らない。
 私の読みですが、いずれメジャーリーグは世界中のアマ選手をドラフト対象にする、インターナショナルドラフトをスタートさせると思うんです。仮にヤンキースに指名された高校生が「ヤンキースに行きます」と言っても、「行くな」とは言えない。高野連とメジャーの間にはポスティング制度どころか何の協定もない。いわゆるメジャーリーグの青田買いに日本球界はどう対応するのか。国内で“内ゲバ”をやっている場合ではないんですが……。
井箟: だからプロとアマが一緒になってアマチュア選手の防衛策を考えないと大変なことになる。

二宮: これからメジャーリーグが、たとえば大阪桐蔭高校の中田翔選手みたいな将来性のある選手をそのまま持っていったとしたら、プロ野球はショックを受けるでしょうね。
井箟: 残念なのは、日本の球団のフロントに本当に意味での「球団経営のプロ」がいないということ。

二宮: 親会社から天下ってきて、「3年ぐらいここにいればいい」では改革はできません。
井箟: 一方で、アメリカはプロ中のプロがフロントをやっている。日本でもフロントのプロを育てないとメジャーの戦略には対抗できない。だからこそ、本当に野球が好きな人が上に立って、球界をリードしていってほしい。

二宮: もう議論よりも行動の時期なんです。プロとアマに、対立している余裕なんてないはず。「日本野球協会」を作って、一本化するしかない。リトルリーグも含めてピラミッドに入れないと。既得権益やメンツを守るだけでは何も生まれない。
井箟: これまでは、プロやアマにそれぞれの城があって、それが栄えてきたからそれでよかったけれど、これからはそうはいかない。社会人野球は変わってきたよね。プロの選手の受け入れもやっているし。問題は高野連がどう動くか。

二宮: プロ・アマの組織統合を図るために、まずは資金の還流がきっかけになると思います。野球はお金がかかるスポーツなんです。硬式ボール1つ買うのに1000円かかる。グローブにバット代、遠征費もかかる。「裏金」が悪いのであって、合法的な金まで否定するのは時代錯誤もはなはだしい。
 少しずつ環境を整えて、共存共栄の意識が高まったところで1つの組織に統合したらいい。アマチュア側の反対のほうが強いと思いますけどね。
井箟: 今の日本はアマとプロが内乱状態ですからね。

二宮: 野球界は江戸時代末期ですよ。とりわけ高野連は「鎖国」のような状況ですね。伝統を守りたいのなら変わらなければならないのに……。
井箟: 黒船(メジャー)はもうだいぶ前から来ていると言っているんだけどね。

(終わり)

<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
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