第64回国民体育大会「トキめき新潟国体」が閉幕した。愛媛県は天皇杯順位(男女総合)が36位。昨年の大分国体の42位から順位を上げ、目標としていた30位台はクリアした。とはいえ2017年のえひめ国体までは、残り8年。「“まだ8年”ではなく“もう8年”と考えなくてはいけない」。体育協会の幹部は意識改革を促す。国体成功に向けた活動の現状と今後の展望を探ってみた。
 今回の新潟国体で少年男女の頑張りが光った。ボウリングでは松山城南高の虎尾貴之選手が3度目の国体で個人初優勝。フェンシングでは三島高校が昨年の準優勝から悲願の優勝を果たした。さらにはバスケットボールの少年女子、サッカー少年男子がいずれもベスト8に入るなど、好成績を残した。

 また愛媛のお家芸ともいえるボートでは成年男子シングルスカルで武田大作選手(ダイキ)が優勝をおさめるなど、6種目が入賞。同じくレスリングでも少年グレコローマンスタイルで八幡浜工業高の近藤達矢選手が60キロ級、花山和寛選手が66キロ級をそれぞれ制覇し、計7選手が入賞した。

「一方で陸上、水泳、体操は成績が伸び悩みました。期待したなぎなたの成年女子も入賞がなく、弓道も成年男子が近的で準優勝したものの、女子は結果が出ませんでした。数字だけ見れば、30位台という目標は達成しましたが、その中身をみると課題が多く見受けられます」
 愛媛県体育協会の山本巌常務理事は今回の国体をこう総括する。山本理事は1980年から3度にわたり、ラグビーの日本代表監督を務め、国内のみならず世界と戦ってきた。その経験を生かし、故郷のスポーツ発展のため力を尽くしている。

 その山本理事が今後の課題として挙げるのが、愛媛ではマイナーな競技の普及だ。
「たとえば昨年の開催県である大分はカヌーが盛んで、好得点を収めている。ところが愛媛はボートが強い一方で、カヌーの普及は進んでいません。またホッケー、銃剣道といった競技も選手数が少ないのが現状です」

 競技を普及し、発展させるためには、まず種をまかなくてはいけない。大分がカヌー王国になったのも、20年前から他県より指導者を招き、長期の普及、育成計画が実ったものだ。また、こういった競技はサッカー、野球などのメジャースポーツと異なり、日頃から親しめる環境が整っていない。いわば花を咲かせるための花壇を整備する必要もあるだろう。うまく育つまでは他競技から選手をスカウトし、“接ぎ木”を行うことも求められる。

「今年の世界陸上のやり投げで銅メダルを獲得した村上幸史選手がいい例ですよね。彼は中学時代まで野球部で投手をしていた。肩の強さを見込まれてやり投げに転向したわけです。カヌーはボートからの転向が見込めるでしょうし、銃剣道だって剣道と共通した部分がある。ある競技ではうまくいかなくても、別の競技で才能が花開くことは充分考えられます。その見極めが大切なんだと思います」(山本理事)

 種が根付き、芽を出すためには、何よりしっかりとした土壌が必要不可欠である。地域に競技の拠点となるクラブがなければ、普及はおろか育成も強化もおぼつかない。山本理事は今回の国体で地元優勝を飾った新潟県のラグビーを例にとる。

「新潟と聞いてラグビーを連想する人は少ないと思いますが、ここには新潟アイビスというクラブチームが4年前にできています。ここを中心にして国体メンバーが構成されていました。クラブという拠点があることで、一度、他県でラグビーをしていた選手でも故郷に戻って競技を続けることができる。国体というとトップ選手を寄せ集めて代表チームをつくるケースもありますが、団体競技ではチームプレーの面でうまくいかないこともある。やはり核となる母体が地元にないと、安定した成績は望めません」

 愛媛でも地域密着の拠点づくりに向けた動きが出始めている。たとえばバレーボール。20年の国体で少年女子のバレーボール開催地となっている鬼北町では、地元のママさんチームが元日本代表の名選手たちとドリームマッチを行った。「実際に地元の方に、その競技のおもしろさを体験してもらうことが第一ですから」と山本理事は、その狙いを語る。
「どんなスポーツがわかれば、より応援していただけるようになる。今後は県のバレーボール協会が中心となって鬼北町で合宿や大会を行い、地元とのふれあいをはかる試みが増えてくると思います」
 単に8年後の国体開催を盛り上げるだけでなく、10年後も20年後もふるさとスポーツとして“一町一技”を定着させる。それが最終目標だ。

 もともと愛媛には豊かなスポーツの土壌がある。夏の甲子園勝率1位を誇る高校野球では、地元の少年野球チームの球児たちが、そのまま高校に入って活躍するという流れが県内各地に自然とできていた。またサッカーで全国優勝を果たした南宇和高には地域全体を巻き込んだ選手育成システムが生まれていた。少子化が叫ばれ、過疎化が進む県内だが、スポーツをあらためて根付かせることは地域活性化にもつながる。

「県内には41の競技団体がありますが、その取り組みにはまだまだ温度差があります。まず各団体には、今回の反省と来年の千葉国体での目標を書面で明確にして出してもらいます。そうすれば何が課題かみえてくる。ジュニアの育成、指導者の養成、強化計画やスタッフや選手の選考……そもそも団体の組織そのものに問題があるのかもしれない。PDCA(Plan,Do,Check,Action)のサイクルを徹底して、こまめに行うことで早く8年後への足並みをそろえたい」
 そう山本理事は意気込む。国体成功、そしてスポーツで豊かな愛媛へ――。その果実は一朝一夕では得られない。まさに桃栗3年、柿8年。先を見据えた種まきと水やりが今、愛媛のスポーツ界で進んでいる。

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(石田洋之)
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