8月にポーランド・ポズナン市で開催されたボートの世界選手権、男子シングルスカルに出場した武田大作(ダイキ)選手は6分59秒25のタイムで4位に入る好成績を収めた。6月から参戦したワールドカップでも第2戦(ドイツ・ミュンヘン)で4位になるなど、シングルスカルでは初の世界挑戦ながら、強豪と互角に渡り合った。帰国後、参加した全日本選手権大会(埼玉県戸田、9月10〜13日)ではシングルスカルで4連覇を達成。後続に17秒差をつける圧勝だった。国内では無敵を誇る武田選手にレース後、世界との戦いで得た収穫と課題を直撃した。
(写真:通算11度目の制覇。自身の持つ大会最多優勝記録をさらに更新した)
――まずは全日本選手権、4連覇おめでとうございます。世界選手権から帰国して、あまり間隔はありませんでしたが、いかがでしたか?
武田: やはり世界選手権後ということで、モチベーションを保つことが一番の課題でした。そのために目標に掲げたのはタイム。優勝して、こんなことを言うのも何ですが、勝負は二の次でしたね。正直、今回はここ(戸田)でのコースレコード更新を狙っていました。6分40秒台も視野に入れていました。結果は4秒近く届かなかった(6分57秒71)ので微妙なところです。

――天気も良く、若干追い風で条件は良かった。反省点はどこに?
武田: 中盤で加速できず、ガタがきました。世界と戦う上では、ここからが勝負どころですからね。前半も、ちょっと固くなってスピードに乗ることができなかった。この2点を改善していけば、もっといいタイムが出たと感じています。7分を切ったら周囲からは認めてもらえますが、僕としてはまだまだです。

――それでも世界選手権では4位。3位の選手とも3秒差と、メダルも充分狙えるレースでした。
武田: 今回は五輪の翌年で、ダブルスカルに出ていた強豪がシングルスカルに続々、参戦していました。決勝に残ったうち4人が北京ではダブルスカルで出場した選手だったんです。いつもの世界選手権よりハイレベルな戦いだったと思います。その中での4位だから価値はある。まぁ、メダルを獲れれば、良かったのですが……。個人的にはまったくうれしくない結果でした。

――3秒の差を分けたものは、何でしょう?
武田: やはり中盤以降、スピードが上がらなかったんですよ。世界の選手は勝負どころを知っていて、そこで強さを発揮する。たとえば優勝したニュージーランドの選手は準決勝で3位通過でした。僕は彼に勝って2位通過だったにもかかわらず、決勝では逆に差をつけられてしまった。今後の課題がはっきり見えましたね。

――6月のワールドカップ第2戦でも4位に入りましたが、マックス・ヘッドコーチは「武田は決勝でまずいレースをした」とコメントしています。
武田: 現に勝てそうなレースでしたからね。今回は全体的にどうしても力が入って、固くなりました。コーチからは「力を入れるのではなく、もっと軽くスピードを意識しろ」と言われています。力が入るのは僕の長所でもあり短所。スムーズにオールを入れて、出す動きができれば、中盤以降の失速はなかったと思っています。

――今年の春にも、「世界と戦うにはスピードが課題」と伺いました。この点は改善できたのでしょうか?
武田: 改善はしたつもりです。ただ、それは世界選手権で決勝に残って勝負するレベルまで。もうワンランク上の世界選手権で結果を残す段階には至らなかった。世界で1番を獲るところまでは質量ともに自分を高められなかったんです。来年以降は、この部分をもっと徹底してトレーニングしないと、世界で勝てないまま終わってしまいますね。

――とはいえ、世界選手権、ワールドカップといずれも決勝に残りました。トレーニングの成果ははっきり出ましたね。
武田: まだ世界のトップレベルで戦えるという手ごたえはつかめましたね。今回、初めてシングルスカルで転戦したのですが、いい経験になりました。35歳になっても新たな発見もあってうれしかったです。
 正直、今年、世界で戦えないとわかったら、引退しようとも考えていました。世界で結果が残せないのに、2012年のロンドン五輪を目指しても仕方がない。もう僕は五輪に4回出ていますから、出場することに意義がある段階はとっくの昔に終わっています。同じように結果を出せないのであれば、それこそ若い選手が五輪に出てくれたほうが次につながりますからね。

――次のレースは27日からの新潟国体です。
武田: 愛媛に戻って、19日から合宿に参加します。練習メニューもあれやろう、これやろうと、勝手にいろいろやろうと思っています(笑)。

――同じ愛媛の代表として、若い選手にアドバイスする機会も出てくるでしょうね。
武田: 質問してくれれば、何でも教えます。ただ、いつも指導している先生方もいるので、こちらのアドバイスで選手が悩んでもいけない。技術的なことはなるべく指導者に伝えて、選手には基本的にメンタルの話をするようにしています。

――たとえば、どんな話を?
武田: 僕が若い選手に言っているのは「笑う角には福来る」。国体という大きな舞台では、いつも通りに漕ぐことが一番難しい。120%の力を出そうと思うあまり、緊張で70%、80%の力しか出ない高校生たちが多くいます。だから、試合になったら笑顔が出せるような雰囲気をつくっていけるように心がけているんです。
 当然、その前提として練習はしっかりやります。取り組みが甘い選手には「それじゃ、勝てないよ」と厳しい言葉をかけることもありますね。オンとオフの切り替えをしっかりしながら、試合に臨む。年齢を重ねるにつれて身につけた方法を、少しでも若い選手に伝えたいと思っています。

――早くも来年はロンドン五輪に向けて、折り返しの1年になります。2010年に向けての取り組みは?
武田: 自分自身としては、もう一度、オフの間に体づくりを基礎からやり直すつもりです。スピードを上げるためにも体幹部分の筋肉をもっと鍛えたい。ボートを速く進めるためには腕の筋肉はあまり必要じゃないんです。体の軸をぶらさず、連動して動かす。これが速くてなめらかな漕ぎにつながります。
 また、五輪に出るためにダブルスカルを再開したいと考えています。軽量級ではシングルスカルは五輪種目にありませんから。こう言うと、みなさんからはすぐ「パートナーは?」と聞かれますが、まだ見つかっていません(苦笑)。こちらの希望としては、若い選手と組みたい。もうワンランク上に行くためにも若い力が必要だと思うんです。「武田さんはひとりでやっていてください」なんて言わずに、一緒に世界と戦ってくれる若手が出てきてくれることを期待しています。
(写真:武田選手のボートのシート部分。形状、材質にこだわった特注だ)

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(聞き手:石田洋之)
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