マドンナ松山、創設10年目の快挙だ。
 高校、大学、社会人の女子硬式野球チームが集まり、日本一を決定する「全日本女子硬式野球選手権大会」が8月1日から5日間、愛媛県松山市のマドンナスタジアム、坊っちゃんスタジアムを会場に行われた。11回目を迎えた今回は33チームが全国から参加。トーナメント方式の大会で愛媛の「マドンナ松山」は初の準優勝に輝いた。

 この大会は第2回から毎夏、松山で開かれている。最初は2006年、松山市が小説「坊っちゃん」発表100年記念事業のひとつとして、「2006ベースボールフェスティバルin松山」を実施し、その一環で開催された。松山市にはプロ野球の公式戦も行われる坊っちゃんスタジアムの隣に、マドンナスタジアムというサブグラウンドがある。女性の名前を冠した球場は全国的にも例がなく、「マドンナスタジアムを女子野球の聖地に」との思いも大会招致につながった。松山開催にあたり、地元企業として、伊予銀行が大会をスポンサード。以降、「伊予銀行杯」として実施され、「女子野球の夏は松山」というイメージがすっかり定着している。

 そして、大会の松山開催を機に四国初の女子硬式野球チームとして発足したのがマドンナ松山だ。第2回大会から毎年出場し、10年と13年は3位入賞を果たした。今年こそは地元で日本一を――。元西武の上田禎人監督(新田高出身)は就任から3年間、選手補強と実戦経験を積み重ねてチーム力アップに力を注いできた。

「打つ、投げるの練習はできても、内野の連携や盗塁阻止といったチームプレーは試合の中でしか磨けません。松山では男子のシニアリーグやボーイズリーグのチームと試合をし、春先には沖縄の大会に出場したり、岡山への練習試合もしました。試合慣れすることで、落ち着いて大会に臨めたのではないでしょうか」

 クラブチーム同士の対戦となった新波(埼玉)との初戦を2−1で制すと、2回戦の佐川急便(東京)戦は新人が大活躍をみせる。福知山成美高から加入した右腕の北野縁が、初回からボールをコーナーに集め、相手打線に快音を響かせない。終わってみれば許したランナーは四球によるひとりのみ。ノーヒットノーランで5−0の快勝を収めた。

「同じく新人の竹内亜里香もショートでいいプレーをしましたね。三遊間のヒット性の当たりをアウトにしたんです。若手がチームに勢いをつけてくれました」
 指揮官がそう振り返ったように、ここからマドンナたちは波に乗る。準々決勝の相手は平成国際大(埼玉)。前年度の優勝チームだ。「全日本クラスのピッチャーが2人いて、10回やって1回勝てるか」(上田監督)という力の差をものともせず、選手たちは健闘する。

 相手先発の立ち上がりを攻め、初回に満塁のチャンスをつくると、笹原瀬菜の三塁打と古谷莉沙のタイムリーで一挙4点を先制する。投げてはエースの坂本加奈がヒットを打たれながらも、前年度の覇者を1失点で抑えていった。

 結果は4−1。上田監督は「これしかないという勝ち方ができました」と明かす。
「坂本と笹原のバッテリーが牽制をうまく交えて、足を封じたのも大きかったですね。先手をとって相手に機動力を使わせず、最少失点で逃げ切る。大きなヤマを越えられました」

 迎えた最終日は準決勝と決勝を一気に行うスケジュールだった。アサヒトラスト(東京)との準決勝は中盤以降、シーソーゲームとなる。1−1から5回に2点を勝ち越したマドンナだが、直後に追いつかれ、スコアは3−3。さらに6回、相手のミスにつけ込んで1点を奪ったものの、その裏、3点を失い、2点ビハインドで最終回に突入した。

 だが、指揮官によると、ベンチ内に「追い込まれた感覚はなかった。行ける雰囲気はあった」という。チャンスをつくり、渡邉涼子、八塚愛が連続タイムリー。3点をあげて再び試合をひっくり返した。7−6。マドンナは初の決勝進出を決める。
 
 日本一まで、あと1勝。優勝をかけて激突したのは京都外大西高だ。
「決勝までは40分までしか時間がありませんでした。心の準備もできないまま、なんとなく試合に入ってしまいました」
 そう反省した上田監督だが、選手たちは初回、江嶋あかりのタイムリーで幸先良く先制する。

 しかし、2回以降、マドンナは得点圏に走者を進めながら、あと1本が出ず、追加点を奪えない。「勝負どころで点を取っていれば……。流れが向こうに行ってしまいました」と指揮官も悔やむ展開で4回には同点に追いつかれてしまった。

 さらに6回、守備の綻びで勝ち越されると、好投を続けていた坂本も力尽き、集中打を浴びて7点を失う。1−8と大差をつけられ、無念の準優勝となった。

「連戦で選手の集中力が最後に途切れてしまいましたね。アウトにできる当たりが続いたのに、それを取り切れなかった。疲れもピークだったでしょうが、それを乗り切る力をつけないといけません」
 上田監督にとって新たな課題が見えた決勝だった。

 選手たちも準優勝では満足していない。最後まで勝ち進んだからこそ、「優勝したい」との思いは一層、強くなった。
「そのためにはワンランク上の練習をしなくてはいけません。長所を伸ばすだけでなく、ウィークポイントを克服することも大事。練習の内容も質も厳しくなることを覚悟しなくてはいけないでしょう」

 上田監督も、より高い次元にチームを引き上げるつもりだ。
「今回はできすぎです。常に安定した成績を残せるようになるまでは、まだまだ。もっと選手層を厚くして、チーム内での競争を激しくしたいですね。その中で個々の体力と技術を伸ばしていければと考えています」
 来年こそ優勝を勝ち取れる強い集団へ――。マドンナたちの視線は、既に次へと向かっている。




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