再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.6)
二宮: アマが枯れたらプロも枯れるわけで、プロ、アマは運命共同体であるにもかかわらず、冷戦が続いている。選手よりも自分たちのメンツが大事なんですね。
井箟: オリックスの球団代表だったとき、お金の問題を球団代表者で話したことがある。「裏金なんて言われるんだったら、高校野球連盟や大学、すごくいい選手を出した学校などに、プロ野球全体として寄付したらどうですか?」と提案したんです。この意見をアマ側に伝えたら、あるアマ側の代表に「プロの不浄なお金はもらわない」と言われたんですよ。

二宮: ある意味、納得ですね。高校野球は結局ビジネスでブランドイメージを守るためにも「汚れなき白球」と言い続けなくてはいけない。高校野球にとっては「清廉潔白」こそがビジネスモデルなんです。でも、それをはっきり言えないから「教育の一環」という大義名分を立てて、プロとは一線を画してきた。
井箟: 2004年に一場問題があって05年に倫理行動宣言を出したときにアマチュアまで話を広げて、徹底調査していくべきだった。あのときは、当該球団のオーナーが辞任して、当事者だけが謝って、それで終わらせている。僕としては、それよりも前の、三輪田くんが亡くなったときに、「アマ側で金を要求している人がいる」というのを議論したかった。

二宮: 結局、プロ、アマ双方のトップを呼んで、話し合えるような議論のテーブルを作らないとだめなんですよね。プロだけで議論してもだめ。両方で「裏金根絶プロジェクトチーム」を作って、お互いがやらなくてはいけない。今回の問題で、西武は膿を出し切ると言っていたけど、他球団の反応はまったく冷ややかだった。
井箟: 横浜の那須野くんの問題でも、日本大学の監督が「もらっていない」と主張して、東都大学野球連盟は「そうか、そうか」と納得して、それだけで終わっている。それではいつまでたっても裏金はなくならない。

二宮: 東都大学野球連盟は調査委員会ぐらい作るべきでしたよ。臭いものにはフタという態度では世間の支持は得られませんね。最終的には、プロもアマも組織統合して1つのカサに入らないといけません。今はプロとアマがバラバラだからお互いに責任を吹っかけあっている。プロもアマも1つの組織なら何か不正が生じたとき、上から下へトップダウンで「調査してくれ」と言える。選手の指導にしても長期的なプログラムが作れますからね。「小異を捨てて大同につく」という言葉がありますが、日本の野球界は「大同」よりも「小異」が優先されている。
井箟: アメリカでは、プロとアマがクリーンに、ガラス張りの中で交流している。日本では、古いルールによる締め付けがあって、それを守れないからごまかしでやっている。以前、アメリカのニューヨーク・ヤンキースにすばらしいサードコーチがいたんですが、シーズン中にフロリダの大学の監督になったことがあった。

二宮: シーズン中にですか?
井箟: そう。それで次のシーズンにはヤンキースのコーチに戻った。アメリカでは、プロ・アマの交流がいくらでもできる。これは野球の振興にとってもいい。昨日までプロのコーチをしていた人が大学野球で教えてくれるわけだから。僕がいる大学でもみんなプロの選手から習いたがっていますよ。それなのに、プロ・アマの間に壁を作って、さまざまな理由をつけて止めている。壁がいっぱいある。イベントでプロ野球選手による野球教室などをやっているが、もっと実のある指導をやらないとだめ。何とか日本もアメリカのメジャーリーグみたいにならないかな。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
◎バックナンバーはこちらから