再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.4)
井箟: ほかにも、他球団とガチガチの相思相愛になっていると思われた選手を指名したことがあります。でも、指名した後に、1カ月経っても親とすら会えなかった。高校の監督が門前払いしていたんです。
「これは絶対に監督に金が回っている」と思って、スカウトに調べさせました。スカウトは調べきれなくて、僕が独自のルートで調べたら、ある球団から監督にお金が渡っていたことがわかった。
二宮: 何千万単位で?
井箟: いや、そのときは何百万単位でした。そこでスカウトに言ったんです。「これだけの金が渡っているから、ウチ(オリックス)が立て替える。精算させろ」と。お金の問題をなくしてから、ウチに交渉させてくれるようにと。そういうふうに交渉を持っていったら、一発で決まりましたよ。

二宮: わかりやすいですね。そういう他球団の「色」を消すために、立て替える予算もあるわけですか?
井箟: いや、予算があるわけじゃない。仕方ないからそうしただけです。こういう問題は、もらった監督だけが悪いわけではない。間に入って悪いことをしているプロのOBなどがいるんです。

二宮: ブローカーみたいな人たちがいるんですね。
井箟: そう。学校とある特定の球団の橋渡しをして、その間でいくらかのお金を抜いたりしている。

二宮: ブローカーの存在は非常にやっかいですね。
井箟: この問題の根が深いところは、少年野球のころから、橋渡しをしたり、ブローカー的な役目をする人間がいるということです。今、私は大学(関西国際大学)で野球部の担当をしていますが、あるとき、高校生を勧誘に行ったら、高校の監督が「あの選手はリトルリーグの監督から預かっているから、勧誘の件はリトルリーグの監督に言ってくれ。僕がどこの大学に行けというのは指示できない」と言われた。
 小学生時代から目ぼしい選手をスカウトして、その子が高校に行くころになると、リトルリーグ時代の監督が「どこそこの高校に行きなさい」と言うんだそうです。これにはびっくりしました。

二宮: 「野球シンジケート」ができているんですね。
井箟: だからコミッショナーが実態をすべて調査しないとだめだと言っているんです。

二宮: 報道では、裏金問題で悪いのはプロだと言われていますが、アマチュアも悪いと思うんです。アマ側にはプロにタカる人がいる。オレにも話を通せと。プロ側は選手がほしいと思うから、その要求にどうしても乗ってしまうわけですね。
 それに加えて、スカウトがキックバックを要求したケースもある。97年に中日ドラゴンズの山田博士(当時山田洋)が脱税で引っかかったときに、スカウトに契約金をキックバックしていたという事例が報告されています。たとえば、ある選手を2000万円で取れそうなときに「3000万円ないと取れません」と言って、その差額を監督と山分けするとかね。これは背任に当たると思うのですが、球団では調査できないんですか?
井箟: 悪いスカウトがいるという噂は聞いたけどね。証拠がなくて、スカウトを信頼するしかなかった。今の体質のままなら、不心得者が出てきてもおかしくない。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
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