今年も15日間の熱戦に幕が下りた。全国4081校が参加した今大会、頂点に立ったのは開幕ゲームで初勝利をあげ、延長15回引き分け再試合、さらに優勝候補との延長戦を制するなど、数々の激戦を勝ち抜いた佐賀北だった。公立校としては1996年の松山商(愛媛)以来、普通科中心の公立校としては84年の取手二高以来の優勝だ。
  昨夏のスター陣をも凌ぐ佐藤由

 さて、今大会も好投手がズラリと揃い、素晴らしいピッチングの数々が披露された。中でも最も注目された仙台育英の佐藤由規は2回戦で姿を消したものの、ストレートのスピードや伸び、変化球のキレ、そしてコントロールは、前評判以上のものを見せてくれた。2回戦の智弁学園戦では甲子園史上最速の155キロを出し、話題ともなった。

 彼の一番の凄さは、150キロ以上のストレートが低めに決まるところである。昨夏、甲子園を沸かせた斎藤佑樹(早実)や田中将大(駒大苫小牧)、大嶺祐太(八重山商工)なども素晴らしいピッチングで高校野球ファンを魅了させた。だが、彼らの思い切って投げた140キロ後半のストレートは、ほぼ全てがビュンと高めに浮き上がっていた。

 しかし、佐藤由は違う。150キロを超えたボールをビシッと低めにコントロールすることができる。例えば、初戦の智弁和歌山戦。同点ホームランを打たれた坂口真規(2年)に対し、次の打席で佐藤は直球勝負を挑んだ。見逃し三振を奪った最後のボールはその試合最速の154キロ。キャッチャーが構えた真ん中外側にズバッと吸い込まれた。しかも、終盤の8回にだ。
 佐藤由はプロ入りを希望しているといわれている。彼がどんなピッチャーになるのか、今後が非常に楽しみだ。

  公立校が優勝した意味合い

 また公立校の佐賀北が優勝した今大会は、未だ特待生制度問題で揺れる高校野球界に大きな影響を及ぼしたのではないだろうか。
 20日には「高校野球特待生問題有識者会議」の第3回会合が開かれ、硬式少年野球の指導者が強豪校への進学に深く関与していたという報告がなされた。むやみに特待生制度を悪しきものとして排除しようとした高野連。一方、優秀な選手をこぞって集めようとする強豪校――。

 佐賀北は、そのどちらにもクルリと背中を向け、「甲子園で1勝」という自分たちの目標に向かって必死に練習を重ね、そして大舞台では思いっきり野球を楽しんだ。その結果が「全国制覇」という最高のかたちとなって返ってきた。彼らにしてみれば、ただそれだけのことだったのではないだろうか。

 特待生制度問題の渦中に行われた今大会が、このような高校野球の原点を色濃くあらわした大会となったことに、大きな意味を感じずにはいられない。
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