日本プロ野球選手会が5月半ば、年俸調査結果を公表した。
 全球団の平均年俸は3553万円。前年比5.3%減だった。
 球団別の年俸ランキングは次のとおり。
 �巨人――5042万円
 �ソフトバンク――4937万円
 �中日――4888万円
 �阪神――4539万円
 �ロッテ――3711万円
 �ヤクルト――3217万円
 �西武――3059万円
 �横浜――3034万円
 �オリックス――2617万円
 �日本ハム――2577万円
 �広島――2503万円
 �楽天 2309万円

 この4年間、リーグ優勝から遠ざかっている巨人が13年連続でトップというのは、端的に言えば、年俸分働いていない選手が多いということである。
 どの球団も年俸の査定にはコンピュータを導入している。にもかかわらず、契約更改で席を立つ選手が続出するのは、どうしたわけか。それは球団の評価基準が、必ずしも選手の能力や活躍を正確に反映するものになっていないからではないか。
 たとえば巨人の場合、もう何年も生え抜きのクローザーが出現していない。今季は太もも裏のケガで出遅れた先発の上原浩治が締めくくり役を務めているが、これも本職の豊田清に信頼が置けないための、いわば急場しのぎである。

 ではなぜ、巨人には生え抜きのクローザーが出現しないのか。阪神の藤川球児や中日の岩瀬仁紀のような、安心して最終回を任せられる守護神を育てることができないのか。
 これは巨人の査定基準に原因がある。はっきり言えば、巨人の査定は先発に甘く、リリーフには辛い基準が採用されている。これではリリーフ投手のモチベーションは高くならない。
 元巨人のリリーフ投手から、かつてこんな話を聞いたことがある。
「リリーフでいくら頑張っても、年俸が上がらないので、査定の担当者に、“これじゃ、やる気にならない”と言うと、“だったら先発に起用されるよう頑張れ”と逆に言い返されました。
 巨人ではリリーフは先発に失格した者がやる仕事だと。だから先発投手より給料を高くすることはできないと言うんです。
 でも、これって変でしょう。先発かリリーフかというのはピッチャーの適性の違いで、先発同様、リリーフも大切な仕事なんです。
 リリーフの立場から言わせてもらえば、先発は投げたら4日間、休むことができますが、リリーフは毎日でも投げなくちゃいけない。たとえマウンドに上がらなくても、ブルペンで肩だけはつくっておかなければならないんです。
 そんな苦労があるのに全く無視され、“リリーフは先発に失格した者がやる仕事だ”なんて言われたら、やる気だってなくなりますよ。こうした給与体系を見直さない限り、巨人からリーグを代表するような生え抜きのクローザー、セットアッパーが生まれることはないと思いますね」

 こうした、言わば「先発選民思想」に基づいた給与体系も、先発完投が当たり前だった時代はよかったもかもしれない。
 しかし、近代野球においてリリーフ陣の充実は不可欠であり、とりわけ頼りになるクローザーのいないチームに優勝はありえない。「勝利の方程式」は9回から逆算方式で組み立てていくのが基本である。
 この4年間、セ・リーグは03年・阪神、04年・中日、05年・阪神、06年・中日と、阪神、中日の両球団が交互にペナントを手にしている。リリーフ陣の充実が競り合いに強い体質をチームもたらせたのだ。

 2年前に阪神が優勝した時のことだ。チームの陰のMVPは日本新記録となったシーズン80試合に登板し、防御率1.36という成績を残したセットアッパーの藤川だった。
 暮れの契約更改で藤川が6800万円アップの9千万円を要求したのに対し、球団側は4800万円アップの7千万円に抑えようとした。怒った藤川は「給料が上がらないのなら先発に転向する」と爆弾発言を行なった。
 これに慌てたのが岡田彰布監督だ。年俸は球団と選手の交渉によって決まるものであり、本来、監督は口をはさむ立場にない。
 しかし、藤川にヘソを曲げられたら、翌年の構想自体にヒビが入ってしまう。
「藤川の場合は数字だけじゃないからな。もうちょっと出したらなアカン。現実に優勝したんだし、あの金額なら保留するわな」

 岡田は助け舟を出すことで、藤川の年俸大幅アップをアシストし、結果的に恩を売るかたちになった。“先発選民思想”の巨人で同じことが起きた場合、リリーフ投手は球団に押し切られる可能性が大だろう。

<この原稿は「経済界」2007年7月3日号に掲載されたものを元に構成しています>
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