横浜F・マリノスの今季のキャッチフレーズは「スクランブル・アタック」(緊急発進攻撃)である。だが非常ベルが鳴っているのは監督室の方だろう。


 開幕戦こそ甲府相手に1−0と勝利したが、第2節の横浜ダービーでは横浜FCにJ1初勝利を献上、第3節の神戸には1−4と大敗した。横浜FC、神戸ともに今季、J2から昇格したクラブ。取りこぼしの許されない相手に連敗し、しかも内容が悪いとなればサポーターが怒るのも無理はない。

 神戸戦後には「早野、辞めろ!」の怒声がホームの日産スタジアムに響き渡った。ついにと言うべきか、やっぱりと言うべきか……。
 早野宏史監督には何の恨みもない。テレビでつまらないジョークを口にするくらいだから、きっと悪い人ではないのだろう。

 しかし、これまでの采配で「さすがだな」と感心した記憶はない。以前指揮を執っていた柏のJ2降格で、ある程度、監督としての力量が明らかになったはずなのに、なぜ古巣のF・マリノスは再び監督として迎え入れたのだろう。

 就任にあたり、早野監督はリスクを冒してでも点を獲りにいく超攻撃的なサッカーを標榜した。理想はともかく、それが現有戦力のカラーに適したサッカーだったのか。リスクに見合った果実が得られないのなら、それは勇気でも蛮勇でもない。単なる無謀である。

 サポーターは賢明だ。06年末、監督就任が正式に発表されると同時に700通もの抗議メールがクラブに殺到したという。これは嫌がらせではなく、クラブの危機を早めに察知していたということだろう。

 悪いことは言わない。浅い傷ならまだ助かる。しかし、傷が深くなり、どんどん悪化していけば助かるものも助からなくなる。フロントは早い時期での指揮官解任も視野に入れておくべきだ。まだ大丈夫、まだ大丈夫と決断を先延ばしにするのが一番よくない。「過ちを改めるにしくはなし」と言うではないか。

 その良き見本がダービーマッチで痛い目に遭わされた横浜FCだろう。
 周知のように昨季、横浜FCのフロントは開幕戦の一試合を見ただけで監督を見限った。足達勇輔監督の首をスパッとはね、コーチの高木琢也に次戦以降の指揮を委ねたのだ。

 高木監督は「勝たなければ成長しないし、家族も幸せになれない」と選手に力説し、徹底して守備を固めた。最初から守り倒すサッカーをやりたかったわけではない。J1に昇格するにはこれしかないと腹をくくったのである。

 早野監督が標榜する「スクランブル・アタック」に、それを選択しなければならなかった大義はあるのだろうか。言葉だけが躍っているような印象を受ける。とにかく、まずは結果だ。

(この原稿は07年4月5日号『アサヒ芸能』に掲載されました)


◎バックナンバーはこちらから