1995年に野茂英雄選手がメジャーリーグへの道を切り開いた後、さらなる上のレベルを目指す日本人選手が米国へ流出。イチロー、松井秀喜、松坂大輔といった日本を代表するスタープレーヤーのメジャー移籍による日本野球界の空洞化も懸念されている。
 日本のプロ野球界が今後進むべき方向について二宮清純、坂井保之(プロ野球経営評論家)、牛込惟浩(メジャーリーグ・アナリスト)が語った。(今回はVol.3)
二宮: かつてロッテが伊良部秀輝投手の移籍においてサンディエゴ・パドレスと独占交渉権という枠組みの下で交渉したんですが、それを見た他のメジャー球団が、「アンフェアだ。機会を与えろ」ということになった。それをきっかけに、スタートしたのがポスティングシステム。それをメジャー志望の強かったイチローを抱えていたオリックスが実用化し、その日本人第一号がイチローとなった。
牛込: イチローをタダで放出したくなかったオリックスがポスティングという制度を考え出した。ただ、ブラックボックスの中で出来レースになりがちなので、ポスティングはやめた方がいいと思う。

二宮: スター選手がメジャーに行ってしまうので、巨人も「ポスティングをやめろ」と主張しています。でも、ポスティングをやめても、FA(フリーエージェント)でメジャーに行ってしまうから、廃止にしたところでは意味はない。一方、経営者はポスティングでお金が欲しい。結局、ポスティングはやめられません。
坂井: でもねぇ、プロ野球は日本のファンあってのもの。そういうファンを見捨てて、ポスティングで移籍するなんて、そういつまでも認められません。
二宮: でも、選手の高いレベルで野球をやりたいという素直な欲求に対して、「ノー」とは言えない。
牛込: 規制できませんよね。

二宮: ポスティングに反対している巨人だって、視聴率がどんどん低下して、テレビの放映権料を失えば、背に腹は代えられないという状況で、「上原浩治に50億円」となったら売るかもしれない。
 じつは、ポスティングよりも恐ろしいのは国際ドラフト。メジャーだって、いつまで景気が良いとは限らない。「松坂に60億円使うのはもったいない。こんなに良い選手が日本人でいるのなら、高校生を原石のうちに獲っちゃえ」ということになる。つまりメジャーのドラフトにかけるわけです。
坂井: 日本が唯一メジャーより優れているところは、良い選手を量産するシステム。高野連(日本高等学校野球連盟)や学生野球(日本学生野球協会)がある。中学校・高校・大学という優れた生産全国ネットがある。米国にはこういう緻密な育成システムがない。それで、プエルトリコやメキシコなどの外国人に依存している。

二宮: だからこそ、ちゃんとしたルールを作っておかないと、日本は人材資源の供給地になっちゃう。甲子園の星に「憧れのヤンキースからドラフト指名を受けたので、直接メジャーに行く」と言われたら、もうどうしようもない。今後は、高校生選手にもエージェントがつくようになるでしょう。
牛込: ダルビッシュ有が東北高校で活躍しているとき、私はあるメジャーの球団から調査を依頼されました。それくらいの若手にメジャーは目をつけている。

坂井: じつは、日本と米国の間では、「青田刈りは禁止」という紳士協定がある。ただ、成文化されていないし、今は実効がない。
二宮: 紳士協定があっても、甲子園の星が「メジャーに行きたい!」と言ったら止められない。職業選択の自由があるんですから。

坂井: そういうことはすべきじゃない、と教えるべきです。それなのに、是認してしまっているから「俺も俺も」ということになる。
二宮: お気持ちはわかりますが、「熟慮した結果、メジャーに挑戦します」と選手に直接言われたら、現実的には引き止められませんよ。最終的には「頑張ってこい」ということになる。今の若者にとって海外でプレーすることは特別なことではないんです。

坂井: しかし、そういう議論をしておかないと、互いにひっこ抜くことになる。日本プロ野球の球団が、メジャーのドラフト対象になる大学選手をひっこ抜いていいのか。
牛込: ちなみに、米国の大学選手は、本人が「日本に来たい」と言えばOK。米国は自由の国ですから。

二宮: 紳士協定があるから大丈夫というのは幻想。紳士協定を守る国は原爆を落としません(笑)。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年3月号『スポーツセレブのマネー論』に掲載されたものを元に構成しています>
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