安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.8)
伊藤: 安倍さんの誠実なリーダー像というのが完全に揺らいでしまったところに、「政治とカネ」の問題が噴出した。さらに、「美しくない閣僚の発言」が出て、最後に「絆創膏大臣」でとどめを刺された(笑)。国民の怒りは爆発して、参議院選手は大敗です。

本宮: そういう流れ国の流れが決まっちゃうところが、日本とはじつに面白い国だと思う(笑)。でも僕には「全部ブン投げて、その場からいなくなりたい」という安倍さんの気持ちもわかったなぁ……(笑)。まぁ、国民にしてみれば「ええっ」と驚くしかなかったけれどね(笑)。

 しかし、田中角栄が作ったり、小泉純一郎が壊したりできたのは、「その時代だったから」という要素が強い。高度経済成長の時代に壊すことはできなかったし、成熟社会になった今だからこそ、小泉さんは壊すことができた。
 逆に今の時代に作れる人がいたら、そいつは間違いなくリーダーです。しかし、安倍さんにはできなかった。

木村: 安倍さんも一応作ろうとしたわけでしょう。

伊藤: 作ろうとしました。

木村: でも、いったい何を作ろうとしたかは見えなかった。

伊藤: 安倍さんが用意した弾は長距離砲すぎました。「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」とか、国民の心に響かなかったということでしょう。だから、もう少し、みんなの心がつかめるようなテーマを設定した上で、理想主義の旗を掲げるべきだったという感じはします。

本宮: でも、今の時代は理想的なアドバルーンを上げても、現実に目の前に流れている風や波があまりにも一定じゃないから、理想の旗を立てようがないと思うんです。「ネットカフェ難民」がいる一方で、「ITバブル長者」がいるような時代でしょ。

 くだらない話だけど、学生時代に全然モテない女の子が色気づいて化粧をし出すと、一斉に男が騙されて声を掛ける。女の子は声を掛けられるのが初めてだから、うれしくって、声を掛けてきた順についていっちゃう。これが「お化粧デビュー」(笑)。同じように男には「成金デビュー」というのがある。合コンばかりやっている「ヒルズ族」みたいなのがいるでしょ。彼らの話を聞いてみると「お前はそれを自慢するのをやめろよ。金がなかったら誰もついて来ないぞ」と思う(笑)。

 そんな彼らも新興企業のトップだったりするわけでしょ。一応リーダーということなんだろうけど、僕に言わせるとリーダーじゃないね。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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