安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.9)
二宮: 本宮作品の神髄は「男」ですよ。「男はかっこいい」ということが描かれている。僕はリーダーうんぬんの前に、なんだか「男」がいなくなったなと思うんです。

本宮: それは仕方がないんだよ。

二宮: そうなんですか(笑)。

本宮: 仕方がないんだ。僕は1947年生まれです。うちのおふくろは僕と一緒にオヤジの悪口を言う。どういう意味かというと、つまり僕は母親の教育で育ったということです。
 戦前までは明らかに男の教育です。「将来、お前は軍人になれ。軍人がダメなら博士か大臣になれ」と言われた。その一方で女性は「それにかしずいて、いい子どもを産んで育てて、いい家庭をつくれ」と教わる。でも戦争で負けて、結局、男が国をなくしちゃった。
 だから戦後は女の教育です。男には「他人に迷惑をかけるな。優しい人間になれ」と。その一方で女性には「自立」を教えてきたんですから。

二宮: そうか。男を作らないような教育になっているわけですか。

本宮: そうそう。そういう教育を受けた僕たちの世代がさらに悪いんだ。つまり今度は、そういう子どもが子どもの「ノリ」で、自分たちの子どもを育てた。しかも男は仕事が忙しいと言って、教育放棄して、その場から逃げた。
つまり、母親に育てられた強烈な女性が、一人で子育てしたわけ。さらに女の教育が行われた。これじゃあ、「男」なんて作りようがない。

木村: スポーツ界にはリーダーらしいリーダーはいますか。

二宮: サッカーの川淵三郎氏(日本サッカー協会キャプテン)はリーダーだと思います。週刊誌なんかで「暴君」なんて書かれて、最近かなり批判されていますが、確かにあれは当たっている(笑)。でも、それ以上に川淵さんには勝負勘がある。
リーダーというのは、子分になったやつらが「この人の下でケンカをやったら勝てるな」と思わせるような何かを持っているかどうかだと思うんです。例えば「時期尚早だ」という批判を受けると川淵さんは「時期尚早だと言うやつは、100年経っても時期尚早だと言う」「前例がないと言うやつは、100年経っても前例がないと言う」と切り返す。「この人と何かを組んだら面白いことができるんじゃないか」というものを見せてくれる。
川淵さん以外にも、亡くなった仰木彬さん(プロ野球オリックス・ブルーウェーブ元監督)も面白かった。やることなすことチャーミング。「この人とだったら面白いことができる」「勝てそうな気がする」「なんか違う場所に連れていってくれる」みたいなものを持っている人がリーダーだと思います。要するに、人生の水先案内人ですね。

木村: 福田総理はどうですか。「遊び」のあるチャーミングなリーダーですか。

伊藤: 意外にね。福田さんなりのキャラがあるんじゃない(笑)。癒し系とはちょっと違うと思いますが、ここしばらく政治がガチャガチャしてしまったので、「もう少し落ち着いた政治をしてほしい」という声の中で誕生したリーダーだと思います。

 しかし、これから先は福田さんの真価が問われます。いまの政治状況は、過去と照らし合わせても、やはり特異な状況なんです。つまり分裂した政府というものが誕生したということです。衆議院の権力と参議院の権力というものが分断されていて、2つの権力が存在している。民意は「衆議院の権力と参議院の権力がよく話し合って、いい方向を導き出してくれ」ということを要求しています。

 国民は自民党に対して「誠実に話し合う姿勢」を求める一方で、民主党に対しては「法案に対する拒否権を握っているのだから責任感を持って対応しろ」と要求している。福田さんはそれに応えるためのリーダーとして誕生した、という感じがします。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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