安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.10)
本宮: 今の日本は本当にバラバラでしょう。国家という概念や国民の意識も、まとまらなくなっていると思うんですよ。だから、テーマを細分化していかないと成り立たない。全部を一緒に考えていたら、どこに行けばいいのか、本当にわからなくなる。

木村: そういうバラバラな時代だからこそ、多くの日本人がヒーローみたいなリーダーを求めていると思うんです。例えば『サラリーマン金太郎』がすごい人気になった背景には、そういうことがあると思うんです。それにしても、金太郎はちょっとかっこよすぎませんか。

本宮: いや、あんなのが実際にいたら、1週間もたないと思う。

全員: あはははは(笑)。

本宮: でもね、やはり「それってあってもいいじゃん」と思うんです。だから金太郎みたいな主人公を描く。ただし、テレビで言うところの視聴者に迎合してはダメです。確かに合わせたら人気は出る。だけど絶対にロングセラーにならない。だから、ちゃんと自分の中のハードルを越えたものを世の中に出さないといけないんです。それができていないと、絶対に自己嫌悪に陥る。

 若い頃、野球作品を描いたことがあるんです。スポーツをテーマにした作品といえば、当時は『巨人の星』と『あしたのジョー』の2枚看板じゃないですか。本人としては、行き詰まってどうにもならなくなっているときに、その2作品を抜いて、僕の作品が人気1位になった。でも本人としては自己嫌悪です。だから連載を「止めたい」と編集部に言った。そうしたら、編集長以下全員が僕のところにやってきて、「『あしたのジョー』と『巨人の星』を抜いて1位になったのに、なんで止めるんだ。お前は何を考えているんだ」と責めるんです。
でも僕は「ちょっと待ってほしい。あなたたちは、俺のこの作品が歴史に残ると思いますか」と反論した。仮に1位や2位がとれたとしても、『あしたのジョー』や『巨人の星』以上に名を残す作品になるわけがないと思ったからです。

木村: 「読者に媚を売ってしまうとロングセラーにならない」ということは、先ほどの「遠くを見ていないと、まっすぐ走れない」というヨットレースの話と似ていますね。例えば媚びないということがリーダーの基本条件なんじゃないですか。

二宮: 野球でいえば、メジャーリーグへの道を切り開いた野茂英雄なんかは一切媚びていないですよ。だからめちゃくちゃマスコミに叩かれた。野茂が渡ったアメリカは、要するに勝ち組と負け組が入れ替わる社会です。今日の負け組が明日の勝ち組になり、その逆もある。しかし、私たちが住む日本では、格差社会の議論もそうですが、「一度落ちたらもうおしまい」みたいな話になっている。

 人生なんて8勝7敗でいいじゃないですか。いや3勝12敗でも、金星が1つあればいい。みんなが一つの物差しで人生の価値を競い合おうとしている。だから「格差」という言葉に過剰反応してしまう。
 そういう意味では安倍さんの「再チャレンジ」は悪くなかったと思う。安倍さん自身も、今回は落ちたけれども、「もう1回俺はチャレンジする」と明確に意思を表示したらいいと思います。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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