4月からスタートした後期高齢者医療制度には、全国のおじいちゃん、おばあちゃんから多くの声が寄せられています。「年金の未払いが解決していないのに、国はお金を取るだけ取るのか!」。みなさんが怒るのは、当然です。
 この制度は高齢化で増え続ける医療費の財政負担緩和を目的に、一昨年の6月に国会で法案が成立したものです。75歳以上のすべての高齢者と一定以上の障害を持つ65歳以上の方を対象に保険料を徴収します。開始にあたって、僕たち議員は厚生労働省の担当者から制度の説明を受けました。それによると、現時点で75歳以上の高齢者は約1300万人で、その医療費は年間で約11兆円。これが2025年には高齢者は2000万人に達し、医療費は30兆円まで増える試算が出ているようです。

 なぜ1300万人で11兆円だった医療費が、2000万人で30兆円と1人あたりの金額が上がるのか。試算に対して素朴な疑問は残りますが、とにかく「このままでは国の財布がもたない。医療サービスが維持できない」ということを強調していました。

 医療費を誰が負担し、どう捻出するのか。この問いには与野党を超えて真剣に取り組まなくてはなりません。しかし、今回の後期高齢者医療制度は、その対応策としては非常に問題点の多いものと言わざるを得ないでしょう。

 たとえば、対象となる高齢者のうち、約200万人は扶養家族として、これまで追加の保険料負担がありませんでした。ところが、今回の制度は高齢者ひとりひとりに保険料が課せられるため、一気に徴収金額が増えることになります。世論の反発もあり、政府はこれを半年間、凍結し、さらにもう半年間は負担を軽減する方針を打ち出しました。ただ、いずれは他の方と同じように徴収されることに変わりありません。

 もちろん、扶養ではない残りの1100万人は通常通り負担を求められます。生活の苦しい一人暮らしの高齢者がいることも考えると、不公平感は否めない措置です。いずれにしても制度設計した際に、こういった問題は想定できたはず。まずは徴収ありきとの姿勢が透けてみえます。

 さらに、保険料を原則として年金から天引きする点も、高齢者の気持ちを逆なでするものです。実は対象となる高齢者の国民健康保険の納付率は98.4%。ほとんどの方が、これまできちんと保険料を支払ってきました。こちらはあまり報道されていませんが、今回の制度改正に伴い、75歳以下の年金受給者の保険料もすべて“天引き”されることが決まっています。ただでさえ記録漏れや未払いでミスの多い年金システムに、大事な保険料の徴収を任せて大丈夫なのでしょうか。早速、対象者でない方からの“天引き”や、徴収漏れなどのミスが全国で相次いでいます。

 なぜ、あえて天引きにしなくてはいけなかったのか。この点を質問すると「口座引き落としの手数料分負担の軽減」との答えが返ってきました。しかし、今の状況をみていると、ミスの訂正に追われているムダのほうが大きいように思えてなりません。こちらも、まずは徴収ありきの決定が混乱を招いています。

 2年前の夏に決まっていた制度にもかかわらず、なぜ、スタート直前になって政府も現場もドタバタしているのか不思議でなりません。本当に必要な制度で、高齢者のためになるのであれば、もっと前から説明やPRを繰り返し、周知徹底する時間は充分にあったはずです。その疑問を広報担当者にぶつけると、ドギマギしていた姿が印象的でした。早くから負担増を宣伝して、世論の反発を招くことは避けよう。そう思っていたのかなと考えてしまいました。

“後期”高齢者というネーミングも含めてナンセンスな制度を、野党では白紙に戻す法案を衆議院に提出しています。世論の反発を重くみた自民党からも、見直しの声が出始めました。ガソリン税の値下げで困っている人はいませんが、保険料の負担増で困っている人はたくさんいます。与党は30日にもガソリン税の暫定税率の復活を再議決で押し通す方針です。優先順位を考えれば高齢者の健康と命に直結する、この問題を先に徹底討論すべきでしょう。与党のみなさんにはこのことを強く訴えたいと思います。

「長生きするのが悪いんかい?」
 あるお年寄りからはこんなことを言われました。誰もが、自分のおじいちゃんやおばあちゃんには長生きしてほしいと思うはずです。ただ、社会全体を見ると、長生きすればするほど損をする。日本はそんな国になっている気がします。政治の役割は弱者に目を向けること――すべての国会議員がもう一度、原点に立ち返ってもらいたいものです。

 専門としているスポーツ政策の面でも、引き続き活動をしています。先日は都内のある学校に屋上の緑化プロジェクトを見学に行きました。屋上に芝生を敷き詰めることで、スペースを有効活用し、温暖化防止にも役立つ素晴らしい取り組みです。芝生を養生するため、お年寄りを中心にボランティアの方が学区内から集められ、子どもたちとの世代間交流もはかられているとか。学校に芝生を増やすことが、コミュニティの再生につながる。そんな実感が沸いてきました。

 何も新しい箱物や道路をつくるだけが僕たちの仕事ではありません。今あるものをどうやって最大限に活用するか、金ではなく知恵を出す。そして、よりよい街をみなさんと一緒につくる。これからも、そんな国会議員を目指していきます。


友近聡朗(ともちか・としろう):参議院議員
 1975年4月24日、愛媛県出身。南宇和高時代は全国高校サッカー選手権大会で2年時にベスト8入りを果たす。早稲田大学を卒業後、単身ドイツへ。SVGゲッティンゲンなどでプレーし、地域に密着したサッカークラブに感動する。帰国後は愛媛FCの中心選手として活躍し、06年にはJ2昇格を達成した。この年限りで現役を引退。愛称はズーパー(独語でsuperの意)。07年夏の参院選愛媛選挙区に出馬し、初当選を果たした。
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※当HP編集長・二宮清純の携帯サイト「二宮清純.com」では友近議員の現役時代から随時、コラムを配信していました。こちらはサッカーの話題を中心に自らの思いを熱く綴ったスポーツコラムになっています。友近聡朗「Road to the Future」。あわせてお楽しみください。
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