実は子どもの頃から秘かに悩んでいたことがあります。それは「内また」。中学時代、僕は陸上部に所属していました。走っているとつま先が内側を向いているため、反対側の足のくるぶしを蹴り上げ、痛いのなんの。それは長距離を走ると時々、靴下が血染めになるほどひどかったのです。
 当時の顧問の先生からも足をまっすぐ出すよう指導を受け、だいぶ矯正もしました。ただ、昔ほど極端ではないとはいえ、今でもふと気づけばつま先がハの字になっていることがしばしば。がに股まではいかなくとも、もうちょっと堂々と歩きたいものです。

 そんな折、先日開かれた編集長の新刊『プロ野球の一流たち』の出版記念イベントの中で、編集長のこんな言葉が耳に留まりました。

「スポーツの一流選手はだいたいたい内またが多いんですよ。柔道でも内または男らしくないからといって、がに股に修正すると弱くなると聞いたことがある」

 えぇー! ほんとですか? 編集長によると、野球でも長嶋茂雄さんをはじめ、好打者には内またが多いとか。内転筋に力を蓄え、投げを打ったり、ボールを打ち返す瞬間に、それを一気に爆発させる。この点で内または理にかなった体勢なのだそうです。

 よく思い出してみると、確かに仰るとおり。小さい頃やっていた相撲でも、「腰を落として、ひざをやや内側に曲げて余裕を持たせる」ことを練習した覚えがあります。これは明らかな内また姿勢。サッカーでもシュートシーンをスローモーションで見ると、踏み込んだ足は内側を向いているケースが目立ちます。これまた内また姿勢。スポーツと離れた分野でも歌う時の姿勢は、「足をやや開き、重心を内側に意識する」と教わりました。ボーカリストがライブで熱唱している時の姿勢はたいていが内また……。

 おぉ、勝手に命名した「内また一流理論」は見事にあてはまります。決して内または恥ずかしいことではないのです。内また万歳、VIVA! 内また。

 なんだか自分に自信が出てきました。「よーし」。意を決した僕は内またを気にせず、歩いてみることにしました。
「おはようございまーす」
 出社後、元気にタイムカードを押して、ペタペタと内またで机に向かいます。

 それを後ろから見ていたHさんが一言。
「Iさん、その歩き方ヘンですよ」
 同じく奥に座っていたSさんも一言。
「キモ〜い」
 新人の男性スタッフのOさんとMさんは下を向き、目線を合わせてくれません。どことなくクスクス笑っているようにさえ映ります。

 僕の中の「内また一流理論」は、音を立ててあっという間に崩れ去っていきました。今では他のスタッフに指摘されないよう、これまで以上に歩き方に気をつける日々です(苦笑)。

(H.I.)
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