7月6日、南関東大会2回戦に臨みました。対戦相手は神奈川県第1代表の相模原。大きな大会に数多く出場している、安定した強さを持つチームです。
 公式戦10試合ぶりの先攻で始まった我がチームは、フォアボールとボークで相手がリズムを崩したところに2連打で先制点。しかしその裏すぐに犠牲フライで同点に追いつかれると6回まで0行進。気の抜けない状況が続きました。
 6回に3安打で1点を追加し、1点リードで迎えた9回裏。ここまで7安打を打たれながらも1点に抑えてきた山口でしたが、先頭打者にレフト前ヒットを打たれ、ノーアウト1塁となりました。その後フォアボールを出し、ノーアウト1、2塁。ここでベンチが動きはじめます。

 「(ピッチャーを)代える?」と監督代行の安藤コーチが大友コーチに尋ねます。
 「うーん……」しばらく沈黙が流れます。「もうひとり分、見ましょう」
 もう一度グラウンドに目を戻すコーチたち。ベンチ内にはもう誰も座っている人はいません。控え選手も皆、ベンチ前の柵に乗り出さんばかりに立ち、一緒に戦っていました。

 ノーアウト1、2塁、2ストライク2ボールからの5球目を相手8番打者がボテボテのキャッチャーゴロ。3塁が間に合わず、1アウト2、3塁となりました。

 ここでベンチが動きました。
 「代えようか」と安藤コーチ。
 「代えましょう」と大友コーチ。
 「新井と心中や」
 ピッチャーはショートを守っていたキャプテンの新井に代わりました。

 静かに投球練習を見守る我がチームは、絶対にピンチを乗り切る、という強い気持ちと、何とかしてくれ、と神様に祈りたくなるような気持ちが入り混じり、異様な雰囲気に包まれていました。新しいピッチャーに挑む相手ベンチも、チャンスを絶対逃さないとばかりに、射るような目つきで新井を観察します。

 2ストライク3ボールからの6球目、9番打者の打球はライト前ヒット。相手ベンチの地が割れんばかりの盛り上がりの中、3塁ランナーがホームへかえり、2対2の同点となります。

 「振り出しにも戻っただけだぞ!」
 「ひとつずつ、アウト取っていこう!」
 互いが互いを支え合うように、声が飛び交います。

 1アウト1、3塁でまわってきたのは調子のよさそうな1番打者です。

 フルカウントからの6球目。

 気がついたときは、センター前に打球が落ちていました。私は整列した相手チーム側に主審の手が上がるのを直視することができませんでした。グラウンド方向へ目を向けず、ベンチの片づけを始めました。

 試合終了直後、仕事で不在だった監督から電話がありました。
 「どうやった?」
 「サヨナラ負けしちゃいました」
 「そうか。なんや、元気ないな」
 監督の声を聞いたら、我慢していた涙が出そうになりました。それをこらえるのに精一杯で、監督の問いかけに答えることができないでいると、そんな私の様子を電話越しに感じたのか、監督が言いました。
 「がんばったやないか。じゃ、切るぞ」

 放心したように通路に座り込む選手を前に、コーチたちも言葉少なでした。コーチたちが何と言ってくれたのかあまり思い出せないのですが、「お前らがんばった。負けたのは俺たちの責任だから」と言ってくれたのだけは覚えています。

 今回のクラブ選手権大会は、野球の技術以外に、チームとして大きな糧を得られたような気がしています。9月後半まで公式戦予定がありませんが、今大会の合計5試合をチームの成長につなげていけると信じています。


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広瀬明佳
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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