北京五輪が8月24日閉幕した。今回の大会には204の国と地域から役員も含めて約1万6000人が参加、17日間にわたって熱戦が繰り広げられた。中国政府が国家の威信をかけて臨んだこの大会から何が見えたのか。上海出身の大学教授兼ジャーナリスト葉千栄氏、金融コンサルタントの木村剛氏、スポーツジャーナリストの二宮清純が討論した。(今回はVol.2)
木村: 「リアルチャイナ」の話と関係するかも知れませんが、日本で見た五輪報道は、まるで「国威発揚」のための番組ばかりだったように思います。「日本のために金メダルを取るぞ」という選手しか映らなかった。もっと面白い、見ごたえのある競技がたくさんあったはずです。例えば、水泳で8冠を取った米国のマイケル・フェルプス選手にももう少し焦点を当てても良かった。

二宮: 典型的な例は「星野ジャパン」でしょうね。結果を出せませんでした。冷静に見てみると、メダルを取った上位3カ国、韓国、キューバ、米国との対戦成績は0勝5敗。一度も勝てなかった。
 星野仙一監督が「好きだ」とか「嫌いだ」とか、そういう問題じゃない。0勝5敗という結果が出たんです。「金メダルしかいらない」と言って大見栄を切って、銅メダルさえも取れなかった。今回の五輪で、結果を出した人たちと、結果を出せなかった人たちがいる。結果を出した人たちはグローバリズムに対応できた人たちであり、対応できなかった人たちはメダルを取れなかった。これはある意味で日本の将来を占うんじゃないかと思っています。

木村: 星野ジャパン惨敗の具体的な原因は?

二宮: 星野ジャパンは対戦相手を本当によく研究していた。ところが自分たちも研究されていることに気が付いていなかった。岩瀬仁紀という左ピッチャーは、韓国の左バッターに8打数4安打と「カモ」にされた。左ピッチャーに対しては、左バッター方が不利です。ところが韓国は左の岩瀬に対し、左バッターを代打に送った。完全に読まれていたんです。岩瀬はストレートとスライダーのピッチャーです。シュートは少ない。左バッターにすると、インコースに食い込むシュートは嫌なんです。しかし、それが少ないのが分かっているから、左バッターは恐れることなく、一歩踏み込んでボールを打ちにいった。それが、逆転を決めたイ・スンヨプ選手のあのホームランなんです。あれは偶然なんかじゃない。
 ところが、星野監督は試合後のインタビューで「これが私のやり方です」と言った。それは「島国野球」ということですよ。世界を見ていない。内向き野球の限界を露呈してしまった。

木村: つまり「玉砕野球」ですね。

二宮: そうです。「負け」にはすべて理由がある。男子柔道の100キロ超級で石井慧が勝ちましたね。彼は「和魂洋才」なんです。気持ちは柔道だけど、世界が「JUDO」だったらそれに対応して勝たないといけない。先日NHKで放送された北京五輪の特集で、彼は「環境に対応できないやつは生き残れない、僕は生き残りたいから環境に対応したんだ」と答えていた。「いいこと言うな」と思いました。
“一本”を取る「美しい柔道」なんて言ったところで、負けたら何も残らない。「美しい柔道」で勝つに越したことはないが、世界はそう甘くない。日本人はナイーブすぎる。スポーツは「適者生存」なんですから。

木村: そういう意味では、先ほど葉さんが指摘したようにグローバル化が進んで「ワンワールド」になってきている。好きか嫌いかはともかく、対応しなければならない。私は星野監督のことは嫌いじゃない。しかし、最後に「ルールがおかしかった」と言った。私はそれを聞いた時に「プロ失格だな」と思いました。

二宮: 彼は「ストライクゾーンがおかしい」と言ったんです。確かに、私から見てもおかしかった。しかし、それは日本にだけじゃない。出場したチームに対して「平等に」おかしかった。韓国のキャッチャーも判定に怒って退場になりましたよ。でも、そういうルールでやっているんだったら、その中で有利な方法を見つけ出すしかない。審判批判がタブーなのは、世界の共通認識です。だから「島国野球」なんです。

(続く)
<この原稿は「Financial Japan」2008年11月号に掲載されたものを元に構成しています>
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