ヨーロッパのクラブに与えられる優勝カップの中で、最も権威のあるものは何か。
 第一は欧州チャンピオンズリーグ(CL)の覇者に与えられる“ビッグイヤー”だろう。
 第二はというと、欧州サッカー連盟の略称を冠したUEFA杯だ。
 1980年代まで欧州には3大カップと呼ばれるタイトルが存在した。
 ひとつがチャンピオンズリーグの前身であるチャンピオンズカップ、二つ目は各国のカップ戦王者が覇を競うカップウィナーズカップ、そして三つ目がUEFA杯である。

 CLとUEFA杯の関係を知るには、それぞれの歴史を学ぶ必要がある。CLの前身であるチャンピオンズカップは、各リーグの優勝クラブのみが出場する大会だった。
 対してUEFA杯には各国のノンタイトルクラブが集結した。
 つまり強豪リーグの2位、3位クラブが登場することにより、チャンピオンズカップに勝るとも劣らない好ゲームが展開された。
 80年代後半から90年代前半には、当時隆盛を極めていたセリエAのイタリア勢がUEFA杯の覇権を争った。89−90年はユベントスとフィオレンティーナ、90−91年シーズンはインテルミラノとASローマが決勝で顔を合わせている。優勝した1クラブのみに出場権が与えられるチャンピオンズカップと異なり、複数のクラブが出場できるUEFA杯は、セリエAが世界最高のリーグであることを証明する舞台ともなった。
 当時のUEFA杯優勝クラブを見てみると、イタリア勢以外にもレアル・マドリッド(スペイン)、アヤックス(オランダ)、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)など現在のCLで優勝を争うようなビッグクラブが名を連ねている。

 だが92年、大会規模の拡大を目的にチャンピオンズカップはチャンピオンズリーグとして生まれ変わる。発展的解消をとげたのだ。97−98シーズンからは各国リーグの優勝クラブだけでなく上位クラブも出場する大会になった。
 この時期はビッグクラブが更なる飛躍を遂げたタイミングとも重なっている。
改革1年目の優勝クラブはレアル・マドリッド。名門クラブが欧州を制したのは実に32年ぶりだった。この後レアルは99−00、01−02とCLを制し、世界中でもっとも成功したクラブとなっていく。
 翌98−99シーズンを制したのはマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)だ。決勝戦での劇的な大逆転はサッカー史に残る。バイエルン・ミュンヘン相手に後半45分が過ぎ、0−1で敗戦濃厚だったユナイテッドはロスタイムで同点に追いつき、さらにはCKから逆転ゴールも奪って、2−1でヨーロッパチャンピオンの座に就く。
 この時のマンチェスターUは31年ぶりの優勝だった。07−08シーズンにも欧州王者に輝いた“赤い悪魔”もレアル同様、生まれかわったCLで復活を遂げているのだ。
現在、隆盛を極める2クラブが復権してきたことと、CLの成功の時期が重なることは偶然ではない。
 CLが試合数の増加や莫大なテレビ放映権料を背景に、絶大なブランドイメージを構築するのに要した時間、わずか10年。それはサッカーが巨大ビジネス化する過程でもあった。

 一方、UEFA杯はカップウィナーズカップと98−99シーズンに統合され、カップ戦王者も出場する大会となる。しかし、UEFA杯の最大の魅力であった各リーグの上位対決は全てCLに舞台を移してしまったのだ。
 具体的に見ていこう。スペインのリーガ・エスパニョーラならば1位から4位までの4クラブがCLに進み、5位から7位までの3クラブがUEFA杯に出場する。CLの予選やグループリーグで敗退したクラブもUEFA杯に回ってくる。好むと好まざるとかかわらずCLの受け皿としての役割を担わされているのだ。
 CLに次ぐタイトルとして存在価値を上げていくにはCLとの差別化をはからなければならない。
 そのために、UEFA杯は来年度から「欧州リーグ」という名称で生まれかわる。これまでは1回戦を勝ち抜いた40クラブがトーナメント方式で2回戦を戦っていたが、1回戦突破クラブを48クラブに変更し、2回戦ではホームアンドアウェー方式で戦うグループリーグが導入されることになった。現行よりも充実した対戦カードを増やすことが狙いだ。
 UEFA理事会の報告によれば、莫大な利益をもたらすテレビ放映権を一括化し、ロゴも刷新、大会のブランドイメージを強化していくという。
 UEFAとしてはUEFA杯をCLと並ぶ“カネのなる木”に育てあげたいようだ。

 果たしてうまくいくのか。折しもヨーロッパは米国を震源とする金融不安の渦にのみ込まれ、実体経済にも影響が出始めている。
 たとえばドイツにおいては好調だった輸出が伸び悩み、雇用が悪化しつつある。消費が冷え込めば、娯楽産業であるサッカーにも悪影響を及ぼすだろう。
 スペインは建設業や不動産業が景気を牽引していたが、住宅バブルが崩壊したことで金融機関が大きなダメージを受けたといわれている。かつての日本がそうだったように金融機関が“貸し渋り”を始めれば、そのシワ寄せをもろに受けるのは中小・零細企業だ。サッカーファンの多くが庶民だということを考えれば、欧州サッカーの繁栄も足元からぐらつきかねない。
 果たしてUEFAの思惑通り事が運ぶのか。今後の経済情勢もUEFA杯改革の成功を左右する要因の一つとなるだろう。

(この原稿は『FUSO』08年12月号に掲載されました)

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