何やら「盗人に追い銭」といった趣だ。大麻力士に500万円超の退職金。どう考えても道理に合わない。それとも、あれはかたちを変えた“手切れ金”なのか。
 さらに驚いたことに大麻問題で降格していた親方が半年もたたないうちに昇格とは……。理事長をはじめ役員報酬のカットもなし。よく「角界の常識は世間の非常識、世間の常識は角界の非常識」というが、ここまでくると、もはや空いた口が塞がらない。日本相撲協会は鈍感にも程がある。

 もし協会が真摯に反省しているというのなら、せめて天皇賜杯の下賜と内閣総理大臣杯の授与を当分の間、辞退すべきだ。
 というのも万が一にも、だ。大麻で汚染された力士が天皇賜杯や内閣総理大臣杯を手にするようなことがあれば、これはもう国技の存廃にまで行きつかざるをえなくなる。

 いつから大麻を吸っていたか定かではないが若麒麟は3場所、露鵬は24場所、白露山は15場所、若ノ鵬は5場所、幕内を経験している。極めて低いとはいえ、汚れた手で天皇賜杯や内閣総理大臣杯を抱く可能性もあった。もし、そんなことにでもなっていたら理事長が職を辞すくらいではすまなかっただろう。ところが困ったことに相撲界からは、そうした危機感が全く伝わってこないのだ。

 協会に天皇賜杯の下賜と内閣総理大臣杯の授与を辞退する気がないのなら、宮内庁と政府は一連の不祥事への懲罰の意味も込めて、一定期間、下賜と授与を見送るべきだ。そうでもしないことには協会は事の重大さに気が付くまい。

 文献によれば、天皇賜杯は相撲をこよなく愛した昭和天皇からの下賜金を元につくられた。だが、一興行団体が賜杯を受け取るのは問題が多い。そこで協会は公益性のある財団法人設立を申請したと言われている。しかも「慌しい御用納めの日にどさくさ紛れで認可を得た」(相撲関係者)との説もある。
 昭和天皇が崩御された際、協会は平成になっても昭和天皇の賜杯が下賜される形を続けてよいかどうか迷った。そこで宮内庁に伺いを立てた。宮内庁は「相撲道奨励のために」と、そのまま下賜を認めている。

 大麻に汚染された今の相撲界が昭和天皇の思いを踏みにじっているのは明白だ。灸を据えるとしたら、今しかあるまい。

<この原稿は09年2月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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