二宮: (フィリップ・)トルシエはどういう監督ですか?
中村: 僕が今まであやふやにしてきたところをすごくつけ込む人だなと思いますね。たとえば、(ホテルでは)みんな部屋に閉じこもるし、好きな奴は好きな奴の組でいつもアップするだろうけど、そういうのを全くなくすんです。
二宮: 厳しいんですか?
中村: 厳しいとは思わないけども。部屋にいつも1人でいたら「なんで他の選手とトランプしないんだ」って。そういうことが大きいんだって。それは後で分かってきたんです。

二宮: 曖昧なところをつけ込むとは具体的に?
中村: つけ込むっていうとおかしいかもしれないですけど、今までの監督だったらそこまで言わないだろうっていう感じ。たとえば日本人はこういう習性なんだって言っていた日本人コーチがいても、「でも世界ではこうなんだ」って。

二宮: 話がわかる人という感じ? それとも頑固?
中村: 自分の思ったとおりのことをするっていう感じです。

二宮: 選手の主張を許さない?
中村: いや、何も言わないよりは言い返すくらいの選手のほうが好きなんですよ。

二宮: 中村さんは何か言い返したことありますか? 他の選手とかは?
中村: ないです……。言い返すというか、トルシエに何か言われてショボンとしてるヤツより、その後、ナニクソって頑張る選手のほうが好きみたいですね。

 アウトサイドでどうアピールするか

二宮: トルシエが代表監督になってから、アウトサイドをやらされましたよね。
中村: やらされた……。まあ、自分ではやっているという感じですけど。

二宮: やっぱり中の人間が外にいくと降格じゃないけど、中のほうが王様っていう感じがしませんか?
中村: ボールタッチする数が極端に減る。その分、アウトサイドではやっぱり単純に言えばアシストして目立つしかなかった。何かアピールしなければ、と常に考えていました。中盤の選手がいっぱいいる中で生き残っていくためには、やっぱり自分のプレーの幅とか武器とか、持っているところでプレーしないと置いていかれる、と思っていました。
 だから、僕はアウトサイドで試合に出て、アピールしたほうがいいと思ったんです。ドリブル、スルーパスといった得意のプレーを完全に取られはしないけど、(プレーする)数の少ないポジションでどうアピールするかっていう感じで。

二宮: 自分なりの危機感みたいなものは……。
中村: それはないですね。監督は足がガンガン速くてディフェンスできて、センタリングが速いアウトサイドっていうよりも、一旦ボールを落ち着かせるというか、あそこで絶対に取られないようにしたいって言っていた。それだったら自分が合っていると思いました。
 ガンガン走るっていうのも要求されてなかったですし、中にも行けって言われますし。ただ、キープしてガンガン後ろから来られたら、僕はやっぱり中田(英寿)さんみたいに全部が全部キープできないから、前を向いてプレーした方がいいとは思っていました。

二宮: でも世界的に見てアウトサイドのゲームメーカーって重要じゃないですか。
中村: 自分ではアウトサイドって感じもしないし、監督もアウトサイドのプレーヤーじゃないっていつも言っている。でも「左にいってくれ」って。ダイヤモンドに並んでサイドハーフじゃないけど、ちょっと左よりでインサイドの選手をケアしながら、っていうイメージでやっていますから。

二宮: (1994年の)アメリカのワールドカップを見に行って、レオナルド(ブラジル)が左でゲームメークをしまくっていたのを見て凄いなと。これからの時代はこうなるのかなって思いましたけどね。あんな感じとは違いますかね? 中村さんは。
中村: トルシエ監督も言っていますけど、(背番号)10番のようなプレーヤーはサイドになるって。

二宮: 21世紀のサッカーでは10番はサイドだと?
中村: 真ん中はスペースがなくなるって。でも、この年齢になって、韓国とか世界を相手にする時には、力がないから(アウトサイドをやっている)って考えたらいけないと思っています。まぁ、ちょっと遠回りしているくらいに考えています。

二宮: 世を忍ぶ仮の姿というか、とりあえず今はこっちにいるけど、また引っ越すよ、と?
中村: でも、今の代表(のシステム)は3−5−2で中の席が1つしかない。4−4−2でダブルボランチだったら前は2人だし、ある程度ディフェンスもできなくちゃいけない。4−4−2だったら、(自分が)左利きっていうのを生かせるフォーメーションになるかもしれない。ただ、今は席が1つしかなくて監督はバランスを重視するから、うまい選手も好き勝手させませんしね。

 アスカルゴルタにキレた!

二宮: マリノスで一時期思うようにできなかった時期があったでしょ。スルーパス出すよりもサイドチェンジ狙った方がいいとか言われていましたね。
中村: 1年目、(ハビエル・)アスカルゴルタ監督の時ですね。あれはまいりました! やっぱり新人だから期待しているんだとみんなは言うけど、あれはちょっと……。たとえば、こう来たボールをスーケル(クロアチア)だったら左のアウトサイドで止めたりするじゃないですか。それですぐ左のアウトサイドで切り返してっていうプレーは絶対怒られる。こう来たら絶対に右のインサイドで止めないといけない。アウトサイドはトラップの精度が悪いからって。そうやって、個性まで消されるから。
 トルシエは戦術のことはしっかりしているけど、個性までは消さない。個性を生かそうとする。例えば、本山(雅志)と僕を生かすために、中でごちゃごちゃするより外で1対1した方がそのチームにとってプラスだろうと。

二宮: アスカルゴルタは?
中村: 基本はそっちもあるけど、こっちのほうがいいよって指示の仕方だったんですけど、サイドチェンジだけは「ピィーッ!」と止めて、「スルーパス出すな、サイドチェンジだろう」って。それだったらいつ相手を崩すんだって、僕も不満がたまってキレました。
(FWのフリオ・)サリナスが全然動かなくて、自分がボールを取られても追わないんですよ。カバーするのは僕らMFやDFじゃないですか。僕が取られた時には僕は一生懸命追っているのに、サリナスがボールを奪われたときに、監督は僕に「追えー、若いんだから」って。それで監督のところにいって「サリナスには言わなくてどうして僕ばっかり言うんですか」って言ったら、「あいつはワールドカップ3回出ているからいいんだ」と。僕は「3回出てればいいんですか」って。チームの一員だし、ワールドカップ3回出てようが関係ない。前から追ってくれないと、守るのは残りの10人なんだから。そういう個人的な「お前だけは好きなプレーしていいよ」っていうのは絶対によくないってアスカルゴルタ自身も言っていた。
 そのあとサリナスが取られて追わなかったら、監督が「ワールドカップ3回出たからって追わなくていいのか」って言っていました。通訳の人には「俊輔の言ってることは監督も正しいと思ったから、サリナスに言ったんだ」と聞きました。

二宮: それは1年目の話?
中村: 1年目で積もりに積もって、2年目で言いました(笑)。だって城(彰二)さんも追っているし。追うからいいっていうもんじゃないですけど、そこからDFが始まって後ろも整えられる。そういうことをすごくアスカルゴルタ監督自身が言っていた。だから、スター選手はいらないって。

二宮: 一方のトルシエは個性まで殺さないと。
中村: だけど、戦術を守らないで個人プレーばかりやっていると僕のマレーシア戦(五輪1次予選)の時みたいに怒られます。

二宮: その時はなぜ怒られたんですか?
中村: 僕は真ん中で自由にやっていいよって感じで言われたんで、ボールに絡んでやろうと思ってあちこち行ってたら、「右左行って、お前1人で20点取れるのか」って。その時はチーム全体が悪かったけど、最初に僕の所に来て、だんだん熱くなってきて。ダーッて言われていくうちに交代で伸二(小野)入れって。こちらは怒るというより「あっ、そういう意味だったんだ」って、やっと気づいた。
 だから今はどういう指示があったのかを細かく通訳の人に聞いて、監督は何を望んでいるかなって理解しています。

(最終回につづく)
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<この記事は1999年12月に行われたインタビューを構成し、00年12月に掲載されたものです>
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