開幕して約3カ月。振り返ればいろんなことがありました。リーグの経営問題もあり、選手たちは野球に集中できない時期もありました。ただ、試合を重ねる中で、チームの走攻守は少しずつ形になり、良くなっている印象を受けています。
 個人的にも監督業は初めての経験です。投手出身ということもあり、これまで野手を真剣にみる機会はあまりなかったのですが、監督となればチーム全体を把握する必要が出てきます。今までとは違った視点で野球を見れることは楽しいものです。

 試合で攻撃のサインを出す際には積極的に仕掛けるようにしています。現役時代を振り返っても、ピンチで送りバントをされるより、スチールやエンドランなど足を絡めて動かれるほうがイヤでした。簡単にひとつアウトを与えてしまうより、相手投手の出来やカウントに応じて、思い切った手を使ってくるほうがプレッシャーをかけられると思っています。

 現状の神戸は投手7名、野手12名。人数が少ないため、故障者が出れば、まともに試合ができなくなってしまいます。ケガをしないためには、何より基礎体力が肝心です。選手たちには日頃から、しっかり体力強化のメニューを取り入れて
練習をさせています。練習量と内容ではおそらく他の3球団には負けていないでしょう。暑い夏場に、この差が結果に出てくることを期待しています。

 ここまで僕は、体力が充分でない選手たちに試合でムリをさせないよう心がけてきました。投手に関しても登板間隔を空け、疲労回復と調整の時間を与えています。というのも僕自身、阪神に入団した1年目、投げすぎで故障した経験があるからです。ドラフト1位で入団した最初の年、僕は中継ぎで38試合に登板し、84イニングを投げました。ところが1年間の無理がたたり、2年目の登板はわずか1試合。その経験から肩、ひじには限界があるというのが僕の考えです。

 選手育成は、このリーグの大きな目的のひとつ。登板過多で肩、ひじを壊してしまっては育成以前の問題になってしまいます。特定の投手にムリをさせなければ、その分、多くの選手にチャンスが巡ってきます。これが個々の選手のレベルアップにつながり、ひいてはチーム力の底上げになるのではないでしょうか。

 僕は選手たちに、いつもこう言っています。「自分の力をアップすれば勝てる」。やはり選手の成長なくして、勝利はありません。同じプロでも勝利が最優先されるNPBと、勝利と育成を両立しなくてはならない関西リーグではスタンスが異なります。NPBで戦ってきた自分にとって、この点は若干とまどいもありました。でも、今はだいぶ頭を切り替えました。もし思い切ってプレーした結果、失敗であれば仕方ない。こちらも少々ミスをしたり、打たれたくらいでは代えるつもりはありません。

 選手たちは本当に一生懸命、野球に取り組んでいます。練習でも決められたメニューをまじめにこなしますし、思いは純粋そのものです。しかし、それだけではドラフト指名を得る選手になれません。ここがプロの厳しいところです。いかに練習以外のところでプラスアルファのトレーニングをするか。夢をかなえるために、より一層意識を高めてほしいと感じています。

 現在、前期のリーグ戦は各チーム残り10試合を切って、神戸が貯金1で首位。最下位の明石まではわずか1.5ゲーム差です。勝負事である以上、ここまできたら優勝を狙っています。とはいえ、戦い方はこれまでと変わりません。投手に無理をさせないよう、気をつけながら戦っていきます。他チームではエース級の投手が先発に抑えとフル回転していますが、神戸は神戸のやり方を貫くつもりです。

 混戦の優勝争いは選手にとって、いい経験になります。ファンの方も、おもしろいゲームがたくさん見られるはずです。ぜひ、多くの皆さんに球場へ足を運んでいただけることを期待しています。


中田良弘(なかた・よしひろ)プロフィール>:神戸9クルーズ監督
1959年4月8日、神奈川県出身。横浜高、日産自動車を経て、81年にドラフト1位で阪神に入団。ルーキーイヤーから主に中継ぎとして活躍し、この年の7月21日から85年8月11日までの5年間で18連勝をマークした。85年には先発で開幕9連勝するなど、12勝をあげて日本一に貢献。90年には抑えで10勝7敗6セーブの成績でオールスターにも出場した。94年限りで現役を引退し、野球解説者に。今季より神戸の監督に就任した。現役時代の通算成績は226試合、33勝23敗14セーブ、防御率4.73。






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