レフトを守っていたのは、小学生でもなければ二日酔いの中年男性でもない。歴とした元メジャーリーガーである。
 いささか旧聞に属する話で恐縮だが、4日の横浜戦で広島のアンディ・フィリップスが打球の目測を誤り、平凡なフライを二塁打にしてしまった。翌5日の試合では、これまた平凡なフライをグラブにあてて後逸してしまった。次の回、彼がフライを無事にキャッチすると広島ファンから拍手が起きた。フライを捕っただけで拍手が起きる外野手なんて、聞いたことがない。

 しかし、フィリップスを責めれば済むという話ではない。彼の本職はファーストでセカンドやサードも守る。本人によれば、外野を守った経験は「メジャーでも3試合だけ」。広島は昨季限りで昨季、打率3割6厘をマークした好打者のアレックス・オチョアを解雇した。「守備範囲が狭くなったこと」が解雇の理由のひとつだった。
 だが、たったひとりの助っ人スコット・シーボルは極度の不振に陥り、2軍落ちを余儀なくされた。その後は第3子の出産に立ち会うため、米国へ一時帰国した。不振のシーボルの穴埋めに獲得したのが元西武のスコット・マクレーンである。こちらも本職はサードだが、入団後しばらくはレフトを守らせた。肝心のバットは滅多に火を噴かず、打率は目下(7月13日現在)、2割2分2厘。

 広島が擁する3人の外国人は、いずれも右打者で本職は内野手。泥縄式の補強がチームのバランスを著しく歪めている。「資金力のないチームは思ったような補強ができない」と同情する向きもあるが、目下、ホームラン王のトニ・ブランコ(中日)は年俸約2700万円。“隠れエース”のディッキー・ゴンザレス(巨人)は3千万円、投げるたびに評価の高くなるウィルフィン・オビスポ(同)に至っては480万円である。

 このようにセ・リーグのAクラスチーム(巨人、東京ヤクルト、中日)とBクラスチーム(広島、阪神、横浜)を比較した場合、外国人の出来不出来が大きな要因となっていることがわかる。広島は中日に8連敗中だが、この間、ブランコひとりに5本のホームランを浴びている。一方、広島の助っ人トリオがこの間、放ったホームランはわずかに1本。勝てるわけがない。勝負所の夏場、泥縄式補強のツケの大きさを実感する。

<この原稿は09年7月15日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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