「こうした値段は、私には度を超えていると思える」
「私個人の考えでは、このような事態は好ましくない。もし移籍が決まれば、それは社会にも大きな影響を及ぼすだろう」
 さる6月18日、スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相が一人のサッカー選手の移籍に対してこのようなコメントを寄せた。一国の首相がサッカーについて、ここまで個人的な見解を述べるのは異例だ。

 同国の失業率は長引く不況によって20%近くまで上昇した。そんな折、130億円という大金が動くニュースに接して、サパテロ首相は苦言を呈せざるを得なくなったのだ。
 リーガ・エスパニョーラの名門クラブ、レアル・マドリッドが再び“銀河系軍団”の結成に向け、動き出した。
 手始めに6月9日、イタリア・ACミランからカカ(ブラジル)を移籍金92億円で引き抜き、世界を驚かせた。

 さらにその3日後の12日、今度はマンチェスター・ユナイテッドのスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドを獲得するというニュースが報じられた。この移籍でレアルがマンUに支払う移籍金はなんと130億円。これは01年にジネディーヌ・ジダン(フランス、ユベントス→レアル・マドリッド)の移籍で支払われた過去最高額84億円を大きく上回る数字だ。

 米国を震源とした世界同時不況の波が完全に収まらない中、たった数日間でレアルは200億円以上を使い、スーパースターを2人同時に獲得したわけである。
 近年のレアルは06−07、07−08シーズンの国内リーグで優勝はしたものの、クラブにとって最大の目標である欧州チャンピオンズリーグ(CL)では5季連続、ベスト16で敗退した。この結果は欧州を代表する名門クラブにとって、到底満足のいくものではなかった。レアルサポーターの不満は爆発寸前だった。

 さらにサポーターの気持ちを暗くさせたのが、永遠のライバル・バルセロナの快進撃だ。ライバルは今季、リオネル・メッシ(アルゼンチン)、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ(ともにスペイン)ら圧倒的な攻撃陣を擁し、3シーズンぶりにCLを制覇した。加えてリーガ・エスパニョーラ、スペイン国王杯も手中に収め、スペインサッカー史上初の3冠に輝いた。

 超攻撃的と呼ばれるバルセロナのサッカーは、最上のエンターテインメントとして、世界中のファンを魅了している。

(後編につづく)

<この原稿は「経済界」2009年7月21日号に掲載されました>
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