四国・九州アイランドリーグに所属する愛媛マンダリンパイレーツ監督・沖泰司が初めて伊良部秀輝と対戦したのはプロ入り4年目のことだ。場所はロッテ浦和球場。イースタンリーグでのロッテ対日本ハム戦だった。プロ2年目の伊良部は2軍落ちしていた。
 年齢は沖のほうが8つ上だが、大学、社会人を経由してプロ入りしたため、プロでは2年しか伊良部の先輩にあたらない。速いと評判の伊良部のボールを打つことで1軍昇格へのきっかけを掴みたいと考えていた。

 結果は四球。わずか1打席だけの対戦だったが、大きな衝撃を受けた。沖の回想――。「当時、西武の郭泰源や近鉄の石本貴昭など、いわゆる“ストレートがキレる”というタイプの投手はパ・リーグに何人かいた。しかし伊良部のストレートはググッと伸びてくるんです。イメージとしては手許でボールが大きくなる感じ。ボールに威圧感があった。あんなボールを投げていたのは彼だけ」

 高知ファイティンングドッグスへの入団が決まった伊良部は23日、沖が指揮を執る愛媛と対戦する予定。約20年ぶりの再会を沖は誰よりも楽しみにしている。「今どんなボールを投げるのか興味深いです。ただ40歳の投手に負けるわけにはいかない」

 アイランドリーグは、これまで17人の選手をNPBに送り出している。そのうちの8人が投手だ。名前を挙げれば西山道隆(福岡ソフトバンク)、伊藤秀範(東京ヤクルト=退団)、深沢和帆(巨人=退団)、小林憲幸(千葉ロッテ・育成)、梶本達哉(オリックス)、西川雅人(同)、金無英(ソフトバンク)、塚本浩二(ヤクルト・育成)。1軍では3人の投手がプレーしたが、勝ち星をあげた選手はまだひとりもいない。そうした事情を踏まえれば、日米通算106勝27セーブを記録し、ワールドシリーズのチャンピオンリングを2つも持つグレート・ライトハンダーとの対戦は独立リーグの底上げにもつながると思われる。独立リーグには大学や社会人で一度、NPB入りを諦めた選手が多い。NPBへの再挑戦の機会をうかがっているのは伊良部だけではないのだ。

 沖は言う。「ウチの打者には“3回バットを振ってこい”と言います。“臆することは何もない”と」。沖も指導者としてのステップアップを目指している。

<この原稿は09年8月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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