いよいよ4年に一度の冬の祭典、冬季オリンピックの開幕が近づいてきている。第21回を数える今大会の開催地は、カナダ・バンクーバーだ。今月末にはギリシャのオリンピアで聖火が採火され、カナダでは約100日間に渡る聖火リレーがスタートする。日本国内でも日本選手団が本番で着用する公式ウエアが発表。上村愛子や伊藤みき、西伸幸のモーグルスキー勢3人が既に出場が内定するなど、徐々に五輪モードが加速し始めている。そこで新コーナー『Go!Go! バンクーバー』では、各競技のみどころや注目選手、さらには観戦に役立つ豆知識などを紹介する。雪上や氷上を舞台とする冬のオリンピック競技ならではの神髄に迫りたい。
「高山樹里、ボブスレー日本代表入り」
 世間をアッと驚かすニュースが舞い込んできたのは、今年7月のことだ。高山樹里といえば、アトランタ、シドニー、アテネと3大会連続でオリンピックに出場した女子ソフトボール元日本代表のエースである。シドニーで銀メダル、アテネでは銅メダル獲得に貢献。通算8勝(アトランタ3勝、シドニー5勝)は五輪最多記録だ。その高山がソフトボールからはおよそ想像もつかないボブスレーに挑戦しようというのだから、驚かないはずはない。では、いったいなぜ彼女がボブスレーの代表候補として選ばれたのだろうか。

 その疑問を解く前に、まずはボブスレーという競技を知っておきたい。ボブスレーとは鉄製のソリに乗って氷上の坂を下り、速さを競うスポーツである。コースによって異なるものの、最高速度は130キロ以上にものぼり、「氷上のF1」とも言われている。日本国内ではまだマイナーな感は否めないが、ヨーロッパでは伝統的なウィンタースポーツとして人気を博している。オリンピックにも男子は第1回大会から正式種目として採用されているほどだ(女子はソルトレイクシティ大会から)。

 ボブスレーには2人乗りと4人乗りがあり(オリンピックでは女子は2人乗りのみ)、ハンドルで操縦する「パイロット(ドライバー)」と、始めの加速とゴール後のブレーキを担当する「ブレーカー」とに役割がはっきりと分けられている。スタート時はパイロットもブレーカーとともにソリを押すが、いち早くソリに乗りこみ操縦に備える。後を任されたブレーカーは坂の直前まで押し込み、加速をつけるわけだが、この時のスピードが勝負の最重要ポイントといってもいい。日本ボブスレー・リュージュ連盟の山本忠宏ボブスレー強化委員長によれば、この時のタイムが最後まで影響し、勝負を分けるのだという。というのも、実はスタート時についた差はゴールでは3倍にもなる。つまり、スタート区間での0.01秒の遅れは最後は0.03秒の差を生み出すというのだ。ブレーカーの担う責任はそれほど重大といえる。

 坂に入れば、ブレーカーはソリに乗り込み、風の抵抗を受けないように小さく丸まっているだけになる。景色を見るわけでもなく、ただただ重力とカーブの揺れを感じながら、ゴールまで身を任せている。その間、一人奮闘しているのがパイロットである。130キロ以上のスピードの中で、いかに最短距離を走るかが競われる。パイロットは、氷上のコントロールという高い技術力が求められると同時に、カーブの位置や長さ、傾斜の角度など、各コースの形状を細かく把握し、瞬時の判断が必要となる。そのため、何よりも経験がモノをいう。育成には長期間を要し、それこそオリンピックレベルのパイロットになるためには10年近くかかる。現在、日本代表のパイロットが男女ともに決定しているのはそのためだ。(Vol.2につづく)

(斎藤寿子)
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