「岡田監督は守備面での成長を評価していますが?」
 報道陣の質問に、日本代表MF本田圭佑(CSKAモスクワ)はこう答えた。
「守備をするために試合に出ているのではなくて、自分の特徴は攻撃にあることは自分でも自覚している。それを出すために僕は試合に出ていると思っています」
 そして、本音が。
「出来れば守備はしたくないですね」

 モスクワからの帰国記者会見でのひとコマ。
 この“本田節”が物議をかもしている。
「ひとりだけ守備をしないとは何事だ」
 そんな批判も協会に届いているという。
 しかし、と思う。このくらい自己主張のできる男でなければ、南アフリカで活躍することはできないのではないか。
 いや、よく言ったと思う。
 はっきり言って守備重視の戦術なら本田を使う必要はない。献身的に守備にいそしむMFが必要なら、他をあたればいい。
 だがW杯で、岡田武史監督が目標に掲げる「ベスト4」に近付くには、勝ち点3をとるようなサッカーをしなければならない。
「自分らしさをしっかり出さないと結果は出ないと思っています」

 本田の主張は正論である。
 守備の負担が軽くなり、攻撃に専念できれば、得点の可能性はより高くなる。それはチームにとってもプラスである――本田はそう考えているに違いない。
 これを受けて岡田監督はこう反応した。
「あっ、そう。冗談交じりでしょう。全然、心配してない。(ディフェンスを)やりますよ、アイツは」
 笑顔でそう語ったが、内心はおもしろくなかったに違いない。
 岡田ジャパンの基本コンセプトは全員守備、全員攻撃。そして攻守の切り換えの早さである。
 いくら本田がヨーロッパで名をあげたとはいっても、ひとりだけ特別扱いするわけにはいかない。
 聞きようによっては、「監督批判」ともとられかねない発言だが、岡田監督が強く出られないのは、本田のチームにおける立場がそれだけ、強化されたということの証明でもある。

 協会の中にも本田支持者はたくさんいる。
 その代表格が川淵三郎名誉会長だ。
「僕が今回のW杯で一番期待しているのは本田だね。ああいう荒々しさとかトゲトゲしさを持った選手は必要だね。
 ずっと彼を見ているけど、ここ最近の彼の成長は本当にスゴイ。ロシアに行ってまた成長したんじゃないかな。
 北京五輪の時なんてボールを止めてちょこちょこやった後はバックパスを出すくらいで、ほとんど目立ったところはなかった。なんで、あんなポジション(右サイドハーフ)で使うんだろうとずっと疑問だった。
 それが今や人には強い、球離れは速い、シュートも巧いと惚れ惚れするようなプレーをしている。短い期間で、あれだけ成長した選手というのも珍しい。
 岡田監督にツキがあるとしたら、彼と出会えたことだろうね。とにかくロシアの凍てついたピッチでも全くバランスを崩さないし、当たり負けもしない。ものすごく体幹がしっすりしている証拠だね」

<出る杭は打たれる>ということわざが、この国にはある。しかし<出過ぎた杭は打たれない>――。
 今や日本代表における本田のポジションは<出過ぎた杭>である。
 ここまでくれば、もう誰も打ったり、引っこ抜いたりすることはできないだろう。
「守備はしたくない」
 と言った以上、本田にも点を取る責任がある。
 その覚悟を示した発言として私は好意的に受け止めている。

<この原稿は2010年6月11日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから