多様な生物を守り、生息環境や生態系を保護する――。この10月、名古屋市で行なわれた「COP10」(生物多様性条約締約国会議)のテーマだが、これがそっくり野球にも当てはまることを証明したのが日本一になった千葉ロッテである。
 個性豊かな面々が和を尊びながら、互いをいかし合う。命令一下、軍隊のように統率がとれているわけではない。誰かがミスをすれば誰かが補う。誰かが戦端を開けば、誰かが加勢する。戦闘における点が線となり、やがて面となる。多様な個性の集合体でありながら、相互扶助の精神を忘れない。
 その象徴がゲームメーカー型の4番・サブローである。点を線に変え、面への拡大を企てる。それが彼の役どころだ。役割分担が明確な千葉ロッテの打線は理想の生態系を見る思いがした。

 敗れた中日・落合博満監督は「今年のストーブリーグは動く」と早くも補強に乗り出す構えを示している。補強ポイントは素人にだってわかる。6番打者だ。12球団屈指のクリーンアップ(森野将彦、和田一浩、トニ・ブランコ)を誇りながら、そこから段差が待ち受けている。
 今シリーズも井端弘和、野本圭、中田亮二、谷繁元信とかわるがわる4人がスタメン6番に起用されたが、いずれも力不足。ちなみにスタメン、途中交代あわせて6番で打席に立った8人の打率は1割3分8厘、0本塁打、3打点。クリーンアップトリオの後を任された打者の数字がこれでは日本シリーズは勝てない。

 だからといって6番にブランコクラスの外国人をもうひとり用意すれば、来季はリベンジが果たせるのか。事はそう単純ではあるまい。それによって僅差に持ち込み、接戦を制する中日独自の“戦闘様式”に異変が生じてしまっては元も子もない。

 私見を述べれば生態系を乱す恐れのある補強には細心の注意が必要だと考える。既存種と一緒にその池に棲めるサカナでなければ逆に害悪をもたらせる。それと一緒だ。
 Bクラスに喘ぐチームならショック療法も必要だろう。しかし、まがりなりにも中日はセ・リーグの王者だ。落合が指揮を執ってからの7年間は一度もBクラスなし。継続を前提にしない修正は果実をもたらせない。それが世の相場である。

<この原稿は10年11月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから