「それでも地球は回っている」。地動説で知られるイタリアの科学者ガリレオ・ガリレイは、先の言葉以上とも言える名言を残している。
『ガリレイの生涯』(ベルトルト・ブレヒト著、岩波文庫)の中にこうある。宗教裁判にかけられ、自説を曲げたガリレオに反発して弟子のアンドレアが叫ぶ。「英雄のいない国は不幸だ!」。これにガリレオはどう応じたか。「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ」
 行き詰まれば行き詰まるほど人々は英雄を欲する。難局を打開し、解放へと導いてくれる救世主、あるいは革命家。ガリレオが言うように、実はそんな国こそ不幸なのだが……。

 新聞社や通信社が昨年12月に行った世論調査を見ると、菅内閣の支持率はどこも20%台前半。危険水域を大きく下回っている。不支持の理由で目を引くのが首相のリーダーシップ不足。「政治とカネ」の問題にケリはつけられるのか、社会保障や税制を本気で改革する気はあるのか、TPPに参加するのかしないのか。もやもやとした閉塞感がこの列島を包む。

 リーダーの条件とは何か。これまで数多くのスポーツ指導者、指揮官に問うてきた。我が意を得たり。ストンと胸に落ちたのが、チームを3度日本一に導いた元サントリーラグビー部監督・土田雅人のこの一言である。「解決力だと思います」
 土田は続けた。「失敗してもいい。その場その場で判断し、早めに手を打つ。後手に回っちゃダメ。スピード感が大切。失敗したら、また次の手を考えればいい。懸案を放置せず、ひとつひとつ解決していく。その道筋をきちんと示してあげれば選手たちは付いてくる。何もやらずに、ただ時間だけが過ぎる。そして手遅れになる。これが一番良くない」

 入学したばかりの小学生はなぜ先生を尊敬するのか。ある教育評論家は言った。「簡単ですよ。解けない問題を先生が解いてくれるからですよ」。これも解決力ということか。
 逆説的に言えば難題を解決できないリーダーを抱いた組織や国家は追い込まれた揚句、英雄にすがるしかなくなる。おびたたしい血が流れ、犠牲者が生まれる。残念ながら、そうなりそうなスポーツ団体がいくつか思い浮かぶ。リーダーの不在、不作為はかくも恐ろしい。

<この原稿は11年1月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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