負ける時はいつも逆転である。しかも後半の。手負いの獅子ならぬ手負いのカンガルーのなりふり構わぬパワープレーに屈するのが常だった。
 ドイツW杯では前半、幸運なかたちで先制したものの、後半、オーストラリアにまとめて3点奪われた。あたかも決壊する堤防を見るようだった。
 メルボルンでの南アフリカW杯アジア予選最終戦も似たような経過をたどった。前半に先制したものの、後半はオーストラリアのロングボール、ハイボールに苦しめられ、セットプレーで2点取られた。この時も大男たちは日本の弱点を執拗についてきた。

 日本がオーストラリアと戦うにあたり、私が重視するのは「制空権」だ。ペナルティエリア内における空中でのボール争奪が4対6なら、まだ何とかなる。だが3対7では苦しい。2対8以下なら絨毯爆撃を繰り返されて焼け野原だ。
 アジア杯決勝の後半11分、もう持ちこたえられないと判断してアルベルト・ザッケローニは長身の岩政大樹を投入した。領空侵犯には対空砲火で迎撃するとのメッセージだ。これが効を奏した。スポニチのデータによれば岩政の空中戦は7勝4敗、実に勝率6割3分6厘。彼の投入以降、空襲警報のサイレンが鳴る回数はめっきり減った。
 幾度となくゴール前を脅かされながら、しぶとく、したたかに守り通したザックジャパン。精神的なタフネスぶりも光った。

 それを支えたのは第一に南アフリカで得た「自信」だろう。難敵揃いのグループを勝ち点6で通過し、PK戦で涙をのんだものの、ブラジルやアルゼンチンですら手を焼くパラグアイと互角の勝負を演じた。この経験は何ものにも替え難い。
 第二にパワープレーに対する「免疫力」をあげたい。いくらオージーたちが屈強で、彼らの大部分が欧州でプレーする強者(つわもの)であるとはいっても、オランダの高さも速さも巧さも兼ね備えた攻撃に比べれば、どうってことはない。南アフリカではデンマークのバイキングたちから艦砲射撃を浴びたが、アンカー阿部勇樹の活躍もあり守りが破綻をきたすことはなかった。

 自国の空をどう守り、領空侵犯者を迎撃するか。その防衛システムを構築する上で、決勝のオーストラリア戦ではひとつのかたちを示した。それこそがアジア杯最大の収穫だったと考える。

<この原稿は11年2月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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