初回に3本のヒットを浴び、四球もからんで3点を奪われた。2回、3回と無失点で切り抜けただけに立ち上がりの不安が余計にクローズアップされた。
 キャンプ地・久米島での紅白戦。「打たれたことで逆に収穫があった」。東北楽天・田中将大は冷静な口調で言った。
 立ち上がりの悪さは、以下のデータではっきりと裏付けられる。昨季のマー君のイニング別失点は次のとおり。初回・11点、2回・1点、3回・8点、4回・8点、5回・3点、6回・4点、7回・6点、8回・5点、9回・1点。2ケタ台の失点は初回だけなのだ。
 ピッチャーにとって、初球と初回の入り方は永遠の課題であるとよく言われる。さらなるステップアップを目指すマー君にとって、この課題は避けて通れない。

 初回にまとめて3点も取られて、いったい何が収穫だったのか。マー君は言った。「ブルペンではできるだけ力みが出ないように投げていた。そのせいか立ち上がり、腕の振りが鈍かった。それが失点の原因だったと思います。そのことに気づき、2回以降は意識的に腕の振りを強くした。その感覚を、はっきりと取り戻すことができました」
 先のデータを突きつけると、一瞬、表情が険しくなった。「初回にこれだけ失点しちゃいけませんよね。初回を3人で終わらせれば、こちらの攻撃のリズムも出てくる。初回については充分、意識しているつもりなのですが、逆に意識し過ぎているのかもしれない……」

 マー君は被打率の悪さと比較して防御率の良いピッチャーでもある。昨季の被打率がリーグワースト3位の2割7分なのに対し、防御率2.50はリーグ3位(いずれも規定投球回以上)。ひらたくいえば、ランナーを背負ってからスイッチが入るピッチャーなのだ。「得点圏にランナーが行くと、もうワンギア入る」とは女房役の嶋基宏。
 かつて野茂英雄は四球で塁上をにぎわせても顔色ひとつ変えなかった。「本塁に還さなかったらいいんですよ」。サラッと言ってのけたものだ。2人とも性格的に図太いというより、ピンチを迎えてから本気モードに突入するのだ。打たれ強さこそはマー君の最大の持ち味である。

「本当はランナーを出さなければいいだけの話なんですけどね」とマー君。カラータイマーが点滅してから本領を発揮する“ウルトラマン流投球”の魅力も捨てがたいのだが……。

<この原稿は11年2月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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