NPBもアイランドリーグも各球団が2月1日に新チームを始動してから、ちょうど半月が経過した。今シーズン、リーグからは過去最多タイの6名が新たにNPBの門をくぐり、計19選手が1軍で活躍するべくキャンプを過ごしている。彼らの動向もリーグの行方ともに、ファンは気になるところだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちは、新たなシーズンにどのように臨もうとしているのか? その今を追いかけた。
 スーパーサブを極める――三輪正義

 三輪にとっての2010シーズンは、ひとつの盗塁から始まった。4月3日、神宮球場での横浜戦。11−12と1点ビハインドで迎えた最終回、先頭の相川亮二が四球を選んで出塁すると、代走に起用された。当然、ベンチからの指示は盗塁によるチャンスの拡大だ。続く打者に対する2球目、三輪は最高のスタートを切る。

 ところが、打者が盗塁をアシストしようとバットを出しかけたところにボールが当たってしまい、記録はファールに。絶好のスチールの機会を逃してしまった。局面は1死1塁と変わり、ますます盗塁で得点圏に走者を進めたい場面だ。相手バッテリーも当然、警戒する中、三輪は再び2盗を試みる。決してスタートは良くなかったが、トップスピードのまま2塁へ滑り込んだ。

 判定はセーフ。これが三輪にとって、記念すべきNPB初盗塁だった。足でプレッシャーをかけられた相手バッテリーは知らず知らずのうちに、ストレート系のボールが増えてくる。代打・川本良平が劇的なサヨナラ逆転2ランをレフトスタンドに叩き込んだのは横浜のクローザー・山口俊が投じたストレートだった。三輪の足による揺さぶりが相手にはボディブローのように聞いていた。
「セーフになって本当に良かったです。あそこで盗塁をやらないと意味がない場面。やっとチームの勝利に貢献できたという感覚が沸いてきました」

 試合でベンチ入りできるメンバーは25名いる。よほどのことがない限り、その全員がひとつの試合に出ることはない。しかし、たとえ出番は少なくても、重要な場面で必要とされる時を待っている者がいる。それが「スーパーサブ」だ。

 先輩の宮本慎也からも「スーパーサブ」として生き残る道をアドバイスしてもらった。俊足で内外野は基本どこでも守れる。これは三輪にとって大きな武器だ。課題だった打撃面でもプロ初安打を放ったように改善が見られる。
「改めて振り返ると、独立リーグからNPBに指名されたこと自体、自分にとっては予期しないことでしたからね。もう、恐れるものは何もない。いい意味で開き直って今季はやりたいと考えています」

 取材の最後に「今年はぜひ何回か神宮でお会いできるといいですね」と声をかけた。すると、「いや、何回もお会いしたいです」と笑顔で返された。もちろん目標は1軍定着。10年ぶりのリーグ優勝を狙うチーム内でスーパーサブを極める1年がスタートしている。