「残念ながらお会いすることができなかった」。参院戦惨敗後の菅直人首相の発言だ。無役の議員が一国の宰相に対して言っているのならわかる。真実はその逆だ。素朴な疑問だが、こんな国、他にあるのだろうか。こういう話を聞くと嫌が上にも小沢一郎という政治家の比類なき腕力を確認せざるを得なくなる。
 しかも小沢は多くを語らない。語らないから、周囲は余計に言葉に耳を傾ける。では、誰が一番、小沢の真意を伝えているか。かくして「忖度政治」ができあがる。意識してこれをやっているとすれば、この剛腕政治家は希代の心理学者だ。
 古い側近が去り、新しい側近が生まれる。党を壊しては作り、作ってはまた壊す。その繰り返し。要は堪え性がないのだ。ワガママなのか、それとも芯が強いのか。
 しかし、閉塞の時代にあって人々は「突破力」や「破壊力」をかすかな希望へのよすがと見なしたがる。「一度は小沢にやらせてみたい」。首相への色気を示さないことが小沢幻想を増幅させるというパラドクス。そもそも小沢一郎とは何者なのか? 国民にとって有益な人物なのか? この本を読めばかなりの謎が解ける。
「小沢一郎 50の謎を解く」 (後藤謙次著・文春新書・750円)

 2冊目は「進化の運命」( サイモン・コンウェイ=モリス著 遠藤一佳、更科功訳・講談社・2800円)。 生命とは何か。人間とは何か。この問いに正面から挑んだ大作。知性は偶然進化したとする説が優勢な中、著者は進化が必ず人間に到達すると証明する。

 3冊目は「自信は生きる力なり」( 遠藤隆行著・青志社・1500円)。 アイススレッジホッケーはスケートの刃が2枚ついているソリに乗ってゴールに迫る。著者には足がない。「障害は個性だ」と言い切る前向きな生き方が快挙を生んだ。

<上記3冊は2010年8 月18日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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