「貧すれば鈍する」ということわざは韓国にもあるのだろうか。
 サッカーの韓国プロリーグ「Kリーグ」の八百長問題は泥沼の様相を見せ始めた。5人の選手が逮捕されただけでも一大事なのに、ついに自殺者まで出てしまったのだ。
 朝鮮日報のキム・ドンソク記者は八百長の背景をこう指摘する。<地方球団は八百長の誘惑に弱いことも明らかになった。年俸は多くても5000万ウォン(約370万円)ほどで、いつ解雇されるか分からず、選手たちは皆将来に不安を感じている。そのため八百長の話が持ち掛けられると、断るのは非常に難しい。1年に数回八百長に加担するだけで、年俸の数倍に値する額を受け取ることができるからだ。>(同紙日本語版5月26日付)

 そういえばブラックソックス事件(米メジャーリーグのワールドシリーズで1919年に発生した八百長事件)も、その背景には「低賃金」があった。ホワイトソックスのチャールズ・コミスキーは名だたる“渋ちん”オーナー。そのため選手たちは洗濯代まで請求されるありさま。純白のはずのソックスが黒ずんでいたという逸話も残されている。

 世上をにぎわした大相撲の八百長問題にも同じことが言える。関与者の多くが十両力士で幕下に転落することを恐れて「無気力相撲」に手を染めたと見られている。月給103万円の十両に対し、幕下は本場所手当こそあるが無給。競争社会ゆえ“給与格差”はあって当然だが、片や103万円、片や無給というのは、あまりにも極端過ぎないか。

 なるほど確かに力士は部屋に住んでいれば衣食住の心配はない。幕下に落ちたことで食い詰めてしまったという話も聞かない。
 しかし結婚や引退後の生活などを考えれば不安で眠れない夜もあるはずだ。そこに悪魔がしのび込み、耳元でよからぬことをささやく…。その危険性が大量処分を機に完全に消えたとは思えない。

 洋の東西を問わず、八百長のメカニズムは概ね解明されつつある。にもかかわらず撲滅できない責任は、制度の不備や待遇の改善に目をつぶり、「要は選手の自覚の問題」と言って改革を先送りしてきた統治者の側にもあるのではないか。責任の所在をすべて現場に押しつけ、選手や力士だけを厳しく取り締まれば済むという話ではない。

<この原稿は11年6月1日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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