誰もがトップの座を降りて欲しいと願っているのだが、当の本人には全くその気がない。厚顔無恥。全く困った御仁である。
 どこかの国の首相のことを言っているのではない。海の向こう、米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースのオーナー、フランク・マッコートのことである。
 経営状態が悪化し、大リーグ機構の管理下に置かれているドジャースが27日、破産法適用の申請を行った。マッコートはFOXスポーツとの総額30億ドル(約2430億円)にのぼるテレビ放送権契約案をコミッショナーのバド・セリグが却下したことが破産法申請に至った理由だとしているが、責任転嫁もいいとこだ。全ての責任は公共の財産である球団を私物化し、乱脈経営で破綻危機を招いたマッコートにある。

 この5月にはテレビ放送権を持つFOXグループから大リーグ機構に内緒で3000万ドル(約25億円)を個人で借り入れようとし、セリグから査問を受けた。なぜマッコートがこうした行動をとったかというと、ドジャースの正規の銀行口座に振り込まれると、その半額を離婚訴訟中の夫人側に差し押さえられてしまうからだ。まったくどうしようもないオーナーである。

 泥沼の様相を呈しているドジャースを救うべく、セリグが球団を大リーグ機構の管理下に置き、前駐日大使でレンジャーズの共同オーナーを務めたこともあるトーマス・シーファーを管理責任者に任命したのは当然のことである。マッコートはシーファーを「ウォッチ・ドッグ」(見張りの犬)と毛嫌いしているようだが、メジャーリーグ関係者に聞くと、「マッコートにはマフィアとのつながりを指摘する向きもあり、やむをえない措置」との声が支配的だ。

 3月31日の開幕戦ではドジャースタジアムでサンフランシスコ・ジャイアンツファンがドジャースのジャージを着た2人組の暴漢に襲われるという事件が起きた。ジャイアンツのエース、ティム・リンスカムが被害者に2万5千ドル(約210万円)の治療費を寄付したのに対し、マッコートは「我々に非はない」の一点張り。ついにはドジャースファンからも見放されてしまった。名門を没落させ、ファンをも裏切ったその罪、万死に値する。

<この原稿は11年6月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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