「言葉使いが全く変わった。入ってきた頃と比べると、別人みたいですよ」。最近、2人のスポーツ選手について、別の関係者から同じ感想を聞いた。ひとりがプロ野球、北海道日本ハムの若き主砲・中田翔。そして、もうひとりがこれから紹介するボクシングのWBA世界スーパーバンタム級王者・下田昭文である。
 自他ともに認める天才肌。デビュー前、後にWBA世界スーパーフライ級王者となるアレクサンデル・ムニョス(ベネズエラ)とスパーリングを行い、何度も左のカウンターを命中させた。「あぁ、オレも結構やれるんだなぁ…」。高校中退後、18歳でプロになり、デビューから、いきなり12連勝。才能だけで白星を積み重ねた。

 得てして、こういうタイプは練習嫌いときている。下田も例に漏れなかった。「センスがあるのは最初からわかっていた。しかし、“走ってみろ!”と言っても、“わかりました”と適当に返事しているだけ。“走ってさえいれば、オマエは世界チャンピオンになれるよ”と言っても“やりまーす”なんて言って、実際にはやっていない。はっきり言ってボクシングをナメていた」とはトレーナーの葛西裕一。世界王者にこそなれなかったものの、彼も現役時代は天才肌のボクサーだった。だからこそ下田には厳しく接したのだ。

 中田翔も同様だ。「最初はプロをナメていました」。過日会った際、はっきりとそう言った。「入ったばかりのキャンプでそこそこ打てたので、調子に乗った部分は確かにありましたね」
 変わらなければ、この世界では生き残れない。下田にとっての転機は2年前。日本王座陥落後のパナマ人との試合だった。本人によれば「分の悪い引き分け」。これまでの甘っちょろい考えが吹き飛んだ。「ボクシングに人生を賭ける。そのくらいの気持ちがなければ、この世界では頂点に立てない…」
「天才」と「天才肌」は似て非なる。ダイヤモンドの原石も磨かなければ、ただの石コロに過ぎない。

 9日、下田は米アトランティックシティで同級1位のリコ・ラモス(米国)相手に初防衛戦に臨む。挑戦者は19戦不敗のホープ。「王者不利」の声しきりだが、「オレには危険と言われるくらいの相手がちょうどいい」と見得を切った。東海岸からの朗報を待っている。

<この原稿は11年7月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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