レスリングの世界選手権(9月12日〜、トルコ・イスタンブール)、柔道の世界選手権(8月23日〜、フランス・パリ)に出場する綜合警備保障所属の日本代表5選手が6日、都内ホテルで壮行会に出席した。女子55キロ級で9連覇に挑む吉田沙保里は「来年がロンドン五輪で厳しい戦いになると思うが、今までやってきたことを出しきり、優勝したい」と決意を述べた。
(写真:五輪前年の大事な大会に挑む吉田、伊調馨(前列)ら)
 顔の傷が猛練習の証だった。
「練習中に相手の指が当たって腫れました」
 あごに目立つ大きなアザについて問われると、吉田は笑顔でそう答えた。

 9連覇はもちろん、五輪3連覇に向けても大事な大会だ。日本レスリング協会は2012年ロンドン五輪の代表選考について、世界選手権の優勝と、12月の全日本選手権または来年4月の全日本選抜選手権での優勝を条件に掲げている(2位以下の場合は全日本選手権と全日本選抜両方での優勝が必要)。世界選手権での優勝が即内定につながるわけではないが、ロンドン行きへ大きく前進することは間違いない。

 ここまでの合宿では「体力を落とさないこと」をテーマに、相手を次々に代えた10人抜きを練習に取り入れるなど、スタミナ強化に励んだ。これは北京五輪の代表権を得た4年前の世界選手権での反省に基づいたものだ。
「午前中の連戦で腕が張ってしまった。(勝ったけど)厳しかった」
 今回の世界選手権は五輪の出場枠を競う大会とあって、各国とも力を入れてくる。階級の変更や他競技からの転向もあって、どんな未知なる強敵が待ち構えているか予測はつかない。

「やったことのない選手が来ても、やり直しはできない。連勝ストップにならないように気を付けたい」
 強化合宿では男子とスパーリングも実施し、さらなる強さを求めた。レスリング界の絶対女王に死角はない。
(写真:七夕を前に「短冊には“世界選手権優勝”と書きたい」と語る)

 北京での五輪連覇後、昨年から本格的に競技へ復帰した女子63キロ級の伊調馨は2年連続7度目の世界選手権制覇を目指す。出身の青森県八戸市は3月の東日本大震災で被害を受けた。被災地の思いも背負って臨む大会になるだけに、「世界選手権でメダルを獲ることが責任であり義務」と言い切った。

 再び競技の世界に戻ってきてからは、ただ勝つだけでなく、「自分のレスリングをつくりたい。勉強したい」との思いが強くなっている。
「1ポイントではなく、2ポイント獲れるように、2分間攻め続けられるようにしたい」
 世界選手権での目標も具体的だ。

 男子では北京五輪男子フリースタイル60キロ級銅メダリストの湯元健一が世界選手権では初の入賞を狙う。強豪ひしめく男子の場合は5位以内に入って、まず五輪出場権を確保する役割も求められる。ALSOKに入社後は初出場となる26歳は、「自分の力をすべて出し切れば、いい結果が出ると思う」と大会への手応えをのぞかせた。

 また昨年の世界選手権で5位だったグレコローマンスタイル74キロ級の金久保武大は、メダル獲得を照準に定める。5月には被災地の岩手に行き、ボランティアでがれきの撤去を手伝った。惨状を目の当たりにし、レスリングに対する思いを強くしている。「スポーツを通じて元気づけるためにも、ひとつでも多くの勝利、メダルが必要」と意気込みを語った。

 柔道では女子78キロ超級の田知本愛が世界選手権に出場する。同級の第一人者だった先輩の塚田真希(現コーチ)が昨年引退し、会見では「心細い」と本音を明かしたものの、国際柔道連盟(IJF)のランキングでは1位。名実ともに世界一を証明したい大会になる。
「海外では小さい方なので、大会に向けては組み手を練習してきた」
 最大の強敵となりそうな北京五輪金メダリストのトウ文(中国)についても塚田コーチに特徴を聞くなど準備は着々と進んでいる。レスリング、柔道とも、今年の世界選手権は五輪前哨戦になる。いい結果で五輪イヤーに弾みをつけたい。