二宮: 遠藤さんはPKの名手と言われていますが、もし子どもたちにコツを教えるとすれば、どんなポイントがありますか。
遠藤: まずは自信を持って蹴ることですね。それが一番です。僕のやるような、ゆっくりしたPKは、正直、まねしない方がいいと思います。あれで捕られたら結構恥ずかしいし(笑)。だから子どもは思い切って、蹴ればいいと思います。

二宮: 遠藤さんは、ギリギリまでキーパーを見ているわけですよね。キーパーが重心をかけている方向の逆をつくわけですが、キーパーの膝や足の動きを見るんですか。
遠藤: 膝から下ですね。

二宮: それを見ることで大体どっちに動くかな、と予測はつきますか?
遠藤: 蹴るギリギリまで動かない人は、その時点で端っこの方へ蹴ればいいと思います。大抵は動くので、そこまで見られるか、というのが勝負の分かれ目ですね。

二宮: 足を振り出してどの辺までならスピードやコースを調整できるものですか。
遠藤: かなりギリギリまでいけますが、中途半端なところで変える判断をするのなら、何も考えないで蹴った方がいいです。どっちに蹴るのかじゃなく、キーパーの逆に蹴るというだけを思った方がいい。あとは角度ですね。どっちにも対応できる角度を身に付ける。すぐにはできないでしょうが、何百回か練習したらできるはずです。

二宮: 遠藤選手のプレーをいろんな方が評価をしていますけど、一番的確に表現したのはね、次男の彰弘さんだと思うんですよ。「ヤット(遠藤の愛称)は判断をギリギリまで待つことができる」と。僕はこれだと思ったんですね。待てるというのは、それだけ相手の動きを見ているということですから。人だけじゃなくて、スペースも見ている。もちろんそれだけの技術があるから焦らずに、一番いい選択ができるわけですよね。みんなギリギリまで待てないから、その前動いて失敗してしまう。これこそ遠藤選手の最大のストロングポイントじゃないでしょうか。
遠藤: 他の人がやると1、2で到達するところを、自分は、その1を出さずにそこで0.5待って、待つことによって状況が変わって、そこに出そうとします。1を出したことで、ここが空くから2が出せるんじゃなくて、0.5待つことでそこにスペースができるから、1.5で渡せる。「判断が遅い」って言われる理由でもありますけど。

二宮: 判断が遅いのではなくて、判断するタイミングを見計っているだ、と。
遠藤: そうですね、僕はタイミングをずらしているだけで。そこを理解してもらうのが本当に難しいんですけど。兄貴は何回も対戦してますから、そういうところを分かってくれているのかな、と思います。さすがは兄貴というか、面白い評価ですね。

二宮: もし今、遠藤さんが監督として指揮を執ったら、どんなチームをつくりたいですか。
遠藤: 超攻撃的なチームですね。3点取られたら4点取りにいくサッカーがしたいです。守るサッカーよりも攻めて攻めて、攻め倒すみたいな。

二宮: ガンバの西野朗監督のサッカーよりもっと攻撃的?
遠藤: もっと攻撃的で、もっと厳しく、妥協は許さないです。でも、休みは多くして試合の前に休ませる。そういう大胆なことをちょっとやってみたいと思います。

二宮: やっぱり休ませた方がコンディション的にはいい?
遠藤: リフレッシュできますね。試合をやる時には、「ボール触りてぇ」と思いながら臨んだ方がいいと思うんです。だから、ボールを使わない練習をあえて試合前日にするとか。一日ボールに触らないくらいでは感覚は鈍りませんから。試合前になればなるほどシュート練習をしたくなる選手は多いんですけど、僕ならもう、一切やらせません。

二宮: 練習に逃げる選手もいると思うんですよ。何となく、俺はこんなに練習しているんだぞ、と。よく言えばプレッシャーと闘っているんだけど、悪く言えばエクスキューズをつくっている。「日本の選手は、練習に逃げ込んでいる」と指摘した外国人指導者もいます。
遠藤: それは確かに日本人の悪いところなのかもしれません。プロの世界である以上、結果が全てです。ちゃんと準備しても、結果を出さなければダメですし、逆に最高の準備ができなくても、試合でいいパフォーマンスを見せられれば、「これでもやれるんだ」と思うところもあるんです。そこは難しいです。最高の準備をしなきゃいけない、というのは間違いないと思いますけど。

二宮: 準備の仕方で自分を追い詰めていく場合もあれば、切り替えてリフレッシュをする場合もある。その辺りの判断ができるのが、やっぱり一流のプロなんでしょうね。
遠藤: 人それぞれスタイルはあると思いますが、基本的には僕ら選手は、試合の90分間、最高のパフォーマンスができるようにコンディションをつくっていくことが大事なんです。とにかく練習をしなきゃダメだと、日本人はそう考えがちですが、それは違うと思います。人によってコンディションの差がありますから。でも日本ではどうして練習しないヤツが試合に出られるんだ、みたいな空気がある。確かにその通りなんですけど、それでも自分がちょっと体調が悪い時には、素直に言ってバーンって休めばいいだけでしょう。それが試合で勝つことにつながってくると思うんで。

二宮: 次はブラジルワールドカップです。多くの選手は、ワールドカップは1回出たらまた出たくなる、と言います。
遠藤: 出たいですね、何が何でも。2006年のドイツの時は、次こそはピッチに立たなきゃいけない、という感覚だったんですが、2010年のワールドカップに出て、やっぱりあれ以上の喜びをまた肌で感じたいという気持ちがあります。

二宮: ワールドカップでさらに上を目指す場合、日本代表が超えなければいけないものは何だと思いますか。
遠藤: まずは個を伸ばすことですよね。そのためには海外でプレーすることも大切ですが、Jリーグでプレーする選手の方が圧倒的に多いので、リーグ全体のレベルを上げていかないといけないと思います。レベルが上がれば、外国人選手もJリーグでプレーしたいと思うようになるかもしれないですし。そうなればうまい選手と対戦できたり、若い選手がそれを見て成長していくと思うので。

二宮: これまでJリーグでたくさん試合されてきたわけですけれども、マッチアップしてすごかったと、一番感じた選手は誰ですか?
遠藤: 外国人で、こいつすごいなというのは、Jリーグの中ではいないですね。もちろん海外の選手ではいますけど、絶対勝てねぇな、という選手は正直いないです。

二宮: それはすごい!
遠藤: そういうふうに見ない性格なんだと思います。こいつには全部負けた、というのはないですね。

二宮: 遠藤さんのプレーを見ていると何だかボール自身も楽しんでいるような印象を受けます。最終的に目指しているサッカーはどういうものですか。
遠藤: 理想は、プレーしている僕らが楽しく魅力的なサッカーをして勝つことなんです。それをすれば、見ている方々も自然に楽しめると思うので。

二宮: 選手が楽しめなければ、お客さんを楽しませることはできない、と。
遠藤: 僕自身が楽しくサッカーをしていれば、いい結果が出ると思っているので。いっぱいボールに触って、ゲームをコントロールして、お客さんも興奮するようなサッカーができればいいな、と思っています。

<この原稿は現在発売中の『勝負の瞬間(とき)』(角川マーケティング)に掲載されたインタビューを抜粋したものです>

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