行政改革に辣腕をふるった土光敏夫といえば、「メザシ」で知られる。夕飯の食卓には決まってメザシと玄米。質素な生活ぶりは終生、変わることがなかった。まさしく「清貧の人」だった。
 中学と高等専門学校の受験に4度失敗。就職先の石川島造船所は本人によれば「町工場に毛が生えた程度の会社」。自らを“野ネズミ”にたとえ、叩き上げの技術屋として現場主義を貫いた。付けられたあだ名が「日本一の工場長」。ボルト1本にまで目を配り、点検と修繕を怠らなかった。
 しかし、ひとたび部下に職責と権限を与えると「君に任せた。責任は俺が取る」。まさに大震災からの復興を目指すこの国にとって、今、最も必要なタイプのリーダーと言っても過言ではない。
 本書は土光の語録をベースに編まれたものだ。稀代の改革者の苛烈な生き様、行動の指針、そして将来への展望が余すところなく描かれている。
 周知のように土光は原発を推進した財界人のひとりではあるが、安全神話に染まらず、具体的な懸念をいくつも公表にしている。今の世に土光在りせば、と思わずにはいられない。リーダー不在の時代ゆえのオマージュか。 「清貧と復興」 ( 出町譲著・文藝春秋・1333円)

 2冊目は「日本人が五輪100mの決勝に立つ日」( 中村宏之著・日文新書・743円)。 著者は女子100mと200mの日本記録保持者・福島千里らを育てた陸上指導者。五輪や世界陸上の100mで日本人がファイナリストとなるには何が必要かを問う。

 3冊目は「ありがとうの花」( 山元加津子著・三五館・1100円)。周囲の人間がある日、突然倒れ、重篤な状況に陥る。残念ながら、誰にでも起こり得ることである。そんな時、人は何ができるのか。心の絆の大切さが再確認できる。

<上記3冊は2011年8月24日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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