今月4日、鈴木淳前監督の解任に伴い、大宮アルディージャの新監督にズデンコ・ベルデニックが就任した。彼は91年から1年間、横浜フリューゲルス(現横浜FM)でコーチを務めた後、母国スロベニアの五輪、フル代表の監督を歴任。2000年シーズンの途中からはジェフユナイテッド市原(現千葉)の監督に就任した。その翌年には、3年連続でJ1残留争いを強いられていたジェフをファーストステージ2位、セカンドステージ5位の年間3位に導いた。ベルデニックがどのように低迷していたチームを立て直したのか。当時のインタビュー記事から模索する。
 2001年第1ステージ、第2位。第2ステージでは勝ち点24のサンフレッチェ広島、清水エスパルスに勝ち点1及ばない第5位の成績。J2降格候補といわれていたジェフユナイテッド市原が大健闘を見せた。韓国代表(当時)・崔龍洙(チェ・ヨンス)やミリノビッチを獲得したとはいえ、酒井友之、バロン、小倉隆史などの主力選手を含め15名がチームを離れたのだ。それでいてこの成績なのだから、同シーズンの陰の主役といっても過言ではない。

 第1ステージ終了後、監督のズデンコ・ベルデニックに久しぶりに会った。最初に会ったのはJリーグ創設の前だから、かれこれ10年近く前(当時)のことである。当時「ゾーンプレス」という聞き慣れない用語がサッカー界を席巻し、教えをこうた先がフリューゲルスでコーチをしていたズデンコだった。
 当時は「学者肌の気難しい人」という印象があったが、久しぶりに会ってみて、印象はガラリと変わった。「今まで以上にコミュニケーションを大切にしている」とスロベニア人監督は語っていた。

――2000年8月にジェフ市原の監督に就任されました。それまでのジェフはなかなか結果が出なかった。3年連続J2降格ラインにいました。今シーズン(2001年)は、昨年からのトレーニングや戦術がチームに浸透して、それが結果に現れています。監督就任後、まず、どこから着手していったのですか。
ベルデニック: 来日前、ジェフが3年連続残留争いをしていて、さらに監督交代に伴って連敗しているということは聞いていました。それを聞くだけでも充分、選手たちが自信をなくしてプレーしていることがわかっていました。
 J2に降格しては、もう修復できなくなってしまう。そうならないために、負けないサッカーを展開しました。組織立ったディフェンスをして、カウンターから勝つという形。一つでも自分たちのやっていることを確信し、少しずつ自信をつけてもらおうという意図です。

――まず、ディフェンス面の強化を考えたわけですね。
ベルデニック: 攻撃面の改善は時間がかかります。それに比べると、ディフェンス面の組織立ては、効果が早く出てきますから。

――そのディフェンスの意識を、チームにどのように植えつけたのでしょうか?
ベルデニック: グループ戦術のなかで修正する時間がなかったので、チーム戦術におけるディフェンス面の改善から始めました。なぜなら、一番効果が出るからです。チームで、どこにゾーンを敷くのか――(高い位置か、低い位置か、ノーマルか)というところを徹底しました。
 もう一つは、リベロをどう機能させるのかということ。私が見る限り、日本は、ラインにこだわりすぎてフラットになる時間が長すぎる。もしくは、カバーリングに行くタイミングが遅れて、簡単に裏を取られるというチームが多い。だから、そういうことが起こらないようにと。

――しかし、ディフェンスに偏り過ぎると攻撃のオプションが少ないというか、カウンターを仕掛けるぐらいしかないですよね。
ベルデニック: もちろん、ボールを取った瞬間のカウンターが相手にとって一番の脅威ですし、点を取るのには最高の方法です。しかし、それだけではダメです。いかに、ポゼッションから前へボールを運ぶシチュエーションを作り出すか。そのとき、どうやって深いところへボールを運ぶか。それには、中央突破からのスルーパス、もしくはアウトサイドからのスルーパスなどがあります。

――あなたのサッカーを見ていると、スペースの使い方や、ボールをどんどんリサイクルするシステムを作るのが非常にうまいと感心させられます。
ベルデニック: 来日して感じたことは、選手が相手に取られることを恐れて、ボールを安全なところに蹴ってしまうということ。サッカーはボールをつないだり、動かしたりという楽しさを感じながら、失敗を恐れずに、選手たちにいかにリラックスしてプレーしてもらうか。そこに腐心しています。
 当然、失敗はあります。でも、選手にはチャレンジして失敗する権利がありますから。「勇気をもって攻めろ」と言っています。失敗しても、妥協せずにきちっとボールを動かしたり、つないだりできるように、その点のトレーニングを徹底しています。そのなかで、少しずつ、創造性を見つけてほしいと思っているのです。

――“失敗する権利”というのはいい言葉ですね。
ベルデニック: リスクをかけて出すべきところなのかどうかという判断ができていないと思います。やみくもにボールを動かしたり、ドリブルしてみたりという場面が多くて、バタバタとボールを取られてしまう。
 ですから、そうならないように、奪った瞬間にできるだけたくさんの人間がボールに関係した動きをしていく。そのなかで、たくさんの選択肢を考える。そこで、リスクの少ないほうに動かすのか、それでもリスクをかけるのかというところは選手の感覚だと思います。

――そういう意味では、やはり、個人の能力、判断力が大切になってきますね。ズデンコさんは55パーセントが組織なら、45パーセントは個人に任せるとおっしゃっています。個人のレベルを上げることによって、より魅力的なサッカーができるという考えでしょうか?
ベルデニック: チームの利益のための自由な発想はすごく大切です。自由な発想や判断がないと、サッカーでは最終的に何も結果は出てこないと思います。ただ、自由な発想といっても、個人が思っているいい判断、いいプレーのための自由な発想ではない。

――勝手な自由さではないと。自分の判断がいかに、チームのためになるかということに利益を求めなければいけないのですね。
ベルデニック: そうです。ですから、自分のどういうプレーがチームの結果につながるかという判断基準をもっと正確に知ってもらいたいのです。

(後編につづく)

<この原稿は2002年発売の『「超」一流の自己再生術』から抜粋・一部修正したものです>
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