困ったことにかくして「原子力ムラ」の利権は守られましたというオチになるのだろうか。この9月までに原子力の安全規制を担当する新組織が誕生する。原子力規制委員会と事務局の原子力規制庁だ。独立性が高く、原発推進側に著しくシフトしていたこれまでの組織とは違うと聞いていたが、これから選定する規制委の5人のメンバーについては明らかになっていない。つまり人選によっては原発の監視役を担う機関として中立性、公平性が揺らぐリスクも生じるわけで、国民のひとりとして非常に心配である。
 同根のリスクを抱えているのが大相撲、すなわち「力士ムラ」だ。公益財団法人移行を進める日本相撲協会は年寄名跡の改革をめぐり、一時は功労金による一括買い取りを目指していたが、それを撤回。功労金なしでの協会管理に舵を切った。
「武士は食わねど高楊枝」と言えば聞こえはいいが、親方衆の衣の袖から鎧がちらつく。この世界においては命の次に大切な名跡をはした金で手放すくらいなら、継承者の指名権を確保しておいた方が得策との判断が働いたのではないか。

 さて、そこで重要な役割を果たすのが新たに創設される見通しの資格審査会である。名跡を継ぐにふさわしい人物か否かをここで協議するとのことだが、想定されている審査会のメンバーが親方衆だと聞いて驚いた。不祥事を防ぐためには最低でも非協会員からなる第三者委員会とすべきである。そうでなければ中立性、公平性は担保できない。

 協会の公益法人制度改革対策委員会の面々は、まさか5年前の6月に起きた事件をお忘れではあるまい。あれは振り返るのも忌まわしい出来事だった。
 新潟からやってきた序ノ口力士が虚血性心疾患で急死した。遺体には金属バットやビールびんで殴った痕があった。あろうことか事件の主犯は親方だった。遺族が地元の大学に行政解剖を依頼してなければ、この事件は闇に葬られていた。当時の理事長が、今年1月に復帰を果たした北の湖理事長である。犠牲者に胸を張って報告できるような改革でなければならない。

 親方衆からなる審査会が果たして「指導力や人柄」を正当に評価できるのか。利権を排除できるのか。ここにこそ外部の目や声が必要だと考えるのは、果たして私だけだろうか。


<この原稿は12年6月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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