自虐的なプロモーションが逆に受けているらしい。広島に行くたびに目にするのが「おしい! 広島県」のタイトル入りポスター。地元出身の毒舌タレント有吉弘行をメインキャラクターに起用している。
 レモンの生産量は日本一。カキやお好み焼きなど、おいしいものがたくさんありながら、いまいち浸透し切れていない。そこで「おしい」から「おいしい」へとのコンセプトの下、広島県を売り込もうとの戦略だが、ポスターを見ていて不意に頭に浮かんだのが売り出し中のカープ堂林翔太だ。3年前の甲子園では中京の「4番・エース」として全国制覇に貢献。ドラフト2位でプロ入りした。広島ではプリンスと呼ばれている。
 今季は開幕からサードに起用され、7月17日現在、打率2割6分1厘、9本塁打、27打点。6月29日からは5番に抜擢されるなど、将来を見据えての英才教育が施されている。
 ネックは守備だ。19失策は目下、12球団ワースト。10日の巨人戦では1死満塁で阿部慎之助のゴロを捕り損ね、逆転負けの原因をつくった。捕球のみならず、送球も不安定。せっかくの足と肩がいかされていない。

「目をつぶって使ってりゃ、いずれうまくなるよ」との声もあるが、最悪、イップスに陥る危険性もある。彼の将来を考えるなら、センターコンバートも選択肢のひとつではないか。
 成功例として私がイメージするのは現ホークス監督の秋山幸二だ。堂林と同じく高校までは「エースで4番」。プロに入ってからサードに転向し、85、86年は主にサードで全試合出場を果たした。「やっと慣れてきた。このポジションを続けたい」と渋る秋山にセンター転向を命じたのは当時のライオンズ監督・森祇晶だ。

 コンバートの理由を森は自著『覇道』(ベースボール・マガジン社)でこう述べている。
<私は彼の脚力を世のファンにもっと知らしめたいと思っていた。(中略)外野手はサードほど守りに細やかな神経を使わなくてもすむ。長打力が売り物の彼のバッティングにも、必ずやいい影響を与えるだろうと思った。>

 その後の秋山の成長は説明の必要もあるまい。「センターからはキャッチャーの配球がよく見える。打撃にも役立った」と後に本人は語っていた。カープ黄金期を支えた“ミスター赤ヘル”山本浩二もセンターだ。堂林のスケールを考えれば、センターの方がおいしい!?

<この原稿は12年7月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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