これは残念なデータである。パラリンピックに出場した選手らでつくる「パラリンピアンズ協会」(河合純一会長)の調査で、アンケートに答えた選手たちの実に75.6%がナショナルトレーニングセンター(NTC)を、80.7%が国立スポーツ科学センター(JISS)を利用したことがない事実がわかった。
 昨年8月に「スポーツ基本法」が施行されたことで、障害者スポーツを取り巻く環境の改善を期待したのだが、今のところ大きな変化は見られないようだ。
 スポーツ基本法が健常者のみならず障害者にも目を向けたのは画期的だった。<スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない>

 さらに踏み込めば一昨年8月、文部科学省が発表した「スポーツ立国戦略」には「障害者スポーツとの連携強化」という項目がある。<パラリンピックなどの競技性の高い障害者スポーツにおいて、将来的なオリンピックなどのトップスポーツとの一体的支援を見据え、厚生労働省と連携しつつ、障害者スポーツに関するスポーツ医・科学研究を推進するとともに、強化拠点の在り方についても検討を行う>

 これを絵に描いたモチに終わらせないためには、健常者の競技団体を所管する文部科学省と障害者のスポーツ団体を所管する厚生労働省の歩み寄りが欠かせないのだが、まだ具体的な青写真は示されていない。それを端的に表しているのが冒頭のデータである。文科省が所管するNTCとJISSをパラリンピアンが何不自由なく使用するには、まだ高いハードルがあるようだ。

 元首相で東京五輪・パラリンピック招致委員会評議会の副会長でもある森喜朗氏は「本来はオリンピックもパラリンピックも同じスポーツとしてスポーツ庁が管轄すべきです。ただ厚労省は管轄する障害者を切り離すことに抵抗するでしょうね」と語っていた。

 基本的に「スポーツ庁」の創設には私も賛成なのだが、幼保一元化(幼稚園は文科省、保育園は厚労省)に伴う認定こども園の迷走を見ていると、スポーツ庁を設けた場合、三省庁の利害対立でスポーツ行政の一元化どころか三元化を招いてしまう恐れすらあるように感じられる。それを避けるための方策を模索したい。

<この原稿は12年8月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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