前期最下位からの逆襲を誓った後期も、ここまで借金11の最下位。8月に入ってからは1勝もできていません(0勝7敗2分)。前期の終わりに「後期は優勝争いに絡み、高知を盛り上げたい」とお約束したにもかかわらず、ウソをついたかたちになってしまい、本当に申し訳なく思っています。
 後期も結果が出ない原因は打線の低迷です。せっかく投手陣が頑張っても点が獲れず、競り負けています。4番に昨季の本塁打王・迫留駿を据え、爆発を待ち続けていますが、前期に腰を痛めた影響か、なかなか一発が出ません。村上祐基曽我翔太朗も2割そこそこの打率にあえいでいます。まるで昨年とは別人のような状態です。

 どの選手も練習では現状を打破しようと一生懸命取り組んでいます。しかし、結果が出ないと、どうしても人間はマイナス思考に陥りがちなものです。失敗を恐れ、バットが思い切って出なくなり、打ち頃のボールを見逃す……。まさに負の連鎖に陥っています。チャンスを迎えても自分たちがピンチのような表情をしているようでは、なかなか得点にはつながりません。

 こちらもエンドランなど、積極的に仕掛けて選手たちを動かそうとはしているものの、それがまた裏目に出る悪循環……。選手たちの頑張りを何とか勝利につなげたいのに、うまくいかないもどかしさを感じる毎日です。

 率直に言って、今の成績ではここから逆転優勝を目指すのは厳しいでしょう。しかし、このリーグにはチームの優勝だけでない、もうひとつの目標があります。それは、ひとりでも多くの選手をNPBに送りこむこと。せめてNPB入り選手の数では4球団でトップになれるよう、残り試合は選手たちのアピールを第一に起用をしていくつもりです。

 特に投手陣ではNPBのスカウトからも評価されている選手が何人かいます。そのひとりが故障から復帰した左腕の吉川岳でしょう。彼は2009年に14勝をあげて最多勝に輝きながら、もう少しのところでドラフト指名を逃してきました。今季は肩の故障で一時、戦列を離れたものの、7月に復帰し、現在は中継ぎとして少しずつ状態を上げているところです。

 イニングまたぎや連投でも肩に問題はなく、ボールのキレがいい時に戻ってきました。このまま調子が良くなれば、シーズンのラスト1カ月は本来のポジションである先発に戻し、スカウトに復活を印象付けたいと考えています。

 また井川博文もNPB行きが期待される投手です。今季、愛媛から移籍した彼には、ボールのスピードを生かすため、抑えを任せていました。前期を通じ、速球をスカウトに見てもらう目的はほぼ達成できたと感じています。ならば次は長いイニングでも投げられることを示そう。そんなプランで彼には後期から先発で投げてもらっています。打線の援護がなく、勝ち星にこそ恵まれていませんが、ゲームはしっかりつくれています。先発でも抑えの時と同様、140キロ台中盤のボールがコンスタントに出せれば、より注目度が高まるのではないでしょうか。

 外国人ではチャーリー・ウェザービィを即戦力として売り込めればと思っています。彼の長所はボールのキレと投球術。カットボールを巧みに使ってバットの芯を外す方法を心得ています。この12月に34歳となりますが、テクニックは十分、NPBでも通用するレベルです。

 ただし、同じく外国人でオリックスに途中入団したアレックス・マエストリ(元香川)と比較すると、やや球威に欠ける点がありました。正確に言うと、チャーリーのストレートは140キロ台後半で決して遅いわけではありません。ただ、先発では常に全力投球はできませんから、どうしても球威が足りないように感じられてしまうのです。後期からは、ストレートの速さもアピールすべく、井川に代わって抑えに配置転換をしました。マエストリが1軍で即先発起用され、初勝利をあげたように、現在のNPBではどの球団も外国人投手は欠かせない存在になっています。その一角に、ぜひチャーリーも食い込んでほしいものです。

 投手ばかりを取り上げましたが、野手では捕手の屋宜宣一郎がドラフト候補です。彼は春の阪神2軍との交流試合で盗塁を2つ刺し、いいところを見せました。以降、NPBのスカウトも時々、彼をチェックしてくれるようになっています。しかし、このリーグだけでも星野雄大(香川)、山城一樹(徳島)と打力も備えた捕手がいます。指名を勝ち取るには、もうひと押しもふた押しも必要です。屋宜にとって武器になるのは、何といっても強肩。先日、スカウトが視察にきた試合では、俊足のランナーがいる場面にも関わらず、変化球ばかりを要求して簡単に走られてしまいました。これでは自慢の肩を披露する機会がありません。

 自分をPRするには、少々、ストレート系に偏った配球でもランナーと勝負する状況を演出することも求められるでしょう。本人にも試合後、話をしましたが、NPBに行くには、そういったしたたかな“就活”も大事なのです。

 ドラフト会議までは、あと2カ月。高校野球も終われば、各球団は指名リストの絞り込み作業に入っていきます。そこでリストに入るかどうかは、ここからの最終アピール次第。選手たちには春から取り組んできた成果を、充分に発揮してほしいですね。この先は自らの野球人生を左右する2カ月――アイランドリーグの選手たちには、このことを強く自覚して日々の練習、試合に臨んでほしいと感じています。

 最後に、ホークスのコーチ時代の教え子である小久保裕紀が引退を表明しました。彼は決して器用な選手ではありません。ただ、人一倍の努力で一流選手になりました。5年目の98年にセカンドからサードへのコンバートを提案したのは、実は僕のアイデア。「小久保は肩が弱いからサードで大丈夫か」という不安の声を払拭すべく、高知キャンプで連日のように特守をしたのは良き思い出です。

 打撃でも毎日、寮でマシンのボールを打ってから球場入りするなど、本当に人に見えないところで、よく頑張っていました。あれほどの練習に耐えられる体力、精神力は素晴らしいの一語です。こういった姿はぜひ今のホークスの若手も見習ってほしいですし、NPBを目指す高知の選手たちにも伝えていきたいと思っています。個人的には「まだやれる」と感じますが、進退は本人が決めること。小久保には今度会ったら「ご苦労さま」と声をかけたいです。

定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は東北楽天の内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
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