著者は日本代表コーチや協会の技術委員長も務めた日本サッカー界屈指の理論派である。前日本代表監督・岡田武史の懐刀としても知られている。このほど中国・杭州緑城の監督に就任した岡田の要請を受け、ヘッドコーチを引き受けることになった。
 欧州各国で活躍する日本人選手は年々増えている。一方で、指導者は内向き志向だった。言葉の壁もあり、海外のクラブで指揮を執る者は少なかった。その意味で岡田の挑戦には拍手を送りたい。
 本書にも収録されている岡田との対談で著者はこう述べている。<ヨーロッパには本当に飛び抜けたものすごい指導者がいるけど、指導者のアベレージを見ると、間違いなく日本は上位だと思う>。足りないのは世界の荒波にもまれた経験だけということか。
 アレックス・ファーガソン、ジョゼ・モウリーニョ、アーセン・ベンゲル…。世界のトップに君臨する名将たちに共通する資質は何か。著者は欧州サッカー連盟(UEFA)技術委員長とともに、それを明らかにする。UEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメントは2月から始まる。本書とともに楽しみたい。  「サッカーコーチングレポート」 ( 小野剛著・カンゼン・1600円)

 2冊目は「プロ失格」( 野村克則著・日本文芸社・1500円))。 巨人の2軍バッテリーコーチを務める著者への評価は高い。名選手、名監督の息子として過ごした苦悩と葛藤の日々が今に生きていると考えるのは私だけか。初の自叙伝。

 3冊目は「さわり」( 佐宮圭著・小学館・1600円)。「天才琵琶師」の誉れ高い主人公の鶴田錦史は実に謎多き人物である。20代で出産しながら、40歳を境に「男」として生きた。数奇な運命と幽玄な音色の重なりを解き明かす。

<上記3冊は2012年1月4 日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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